『元気なぼくらの元気なおもちゃ』 ウィル・セルフ

  「ごっつい野郎のごっつい玩具」ではなかったのですか?

  ドラッグ作家による悪夢的世界、みたいな帯の文章は半分あたりで半分はずれ。クールな世界観というよりはやるせない、割と人間くさいトホホな世界がイギリスを舞台に繰り広げられている。そのドラッグ+アンダーグラウンドな話は、ダニーとテーベの兄弟の話、「リッツ・ホテルよりでっかいクラック」と「ザ・ノンス・プライズ」で。前者は巨大なクラックの岩盤の上に建ってる家の話だがドラッグネタより全体のやるせない生活の印象の方が強い。後者はダニーが少年殺人の汚名で刑務所に入れられる話なんだが、いつのまにか創作学校の話に落ち着いてしまうのだ(追記 その後フィッツジェラルドの小説に「リッツホテルほどもある超特大ダイアモンド」The Diamond as Big as the Ritzというのがあるのを知った。読んでないけど)。精神分析医ビルの登場する「元気なぼくらの元気なおもちゃ」と「ボルボ760ターボの設計上の欠陥について」は素材としてはバラードを連想させる(後者はウィル・セルフ流の「クラッシュ」?)が、プライドの高い主人公の孤独感というかむなしさが目立つ(あたたかいいい話というわけでは決してないけど)。奇想コレクションなのでSFらしいものをあげると、エモートと呼ばれる巨人に守られながら傷つかずに他人とつきあおうとする人々を描いた「愛情と共感」。アイディアとしては普通だが面白かった。他「虫の園」「ヨーロッパに捧げる物語」「やっぱりデイヴ」などは結構平均的な異色短編。ウィル・セルフ(いや本名だってさ)の短編集としては非常に読みやすい方ということで、もっとアクの強いものも多いのだろう。