『英国短篇小説の愉しみ』1

 3から読み始めたが1もいいね。3の副題は<不思議の薫りを楽しんでください>で、1の副題は<文学の薫りを楽しんでください>。でも中身に大きな違いはなく、幻想的でほの昏い濃ゆい味のおいしい短編が揃っている。(○がおすすめ)

「豚の島の女王」○ジェラルド・カーシュ 再読。解説の通りどうしても作者本人に目が向いてしまう。2歳の時に死を宣告されて棺に入れられるもむっくり起き出し、長ずると様々な仕事につき格闘を好んでリングに上がり傷だらけになり、六ペンス白銅貨を歯で折り曲げては人に贈る。作家としても紆余曲折ありながら、様々なジャンルの作品を物にし、クイーンやエリスンの賛辞を浴びる。こんな人物に興味をもつなという方が無理。もちろん作品がつまらないということではなく、作品にも本人の色が強いからこそ、さらに本人が気になってしまうのだ。
「看板描きと水晶の魚」○マージョリー・ボウエン 夕暮れの河という舞台こそが主役。一読やや地味だが後に尾を引く。
「羊歯」W・F・ハーヴィー  決して派手ではない話を巧く読ませるのが腕というものか。
「鏡のなかの貴婦人−映像」○ヴァージニア・ウルフ  むむむ!これが≪意識の流れ≫ってやつですかい!いやマジスゴイ。ニューウェーヴSFみたい!<逆だ逆
「告知」ニュージェント・バーカー 切れ味鋭いショート・ショート。「詠別」J・ゴールズワージー うーん。これはいまいちだな。
「八人の見えない日本人」グレアム・グリーン  これも巧い。解説によると「ジョイスなどのセルフコンシャスな、小説自体が主題になった小説に否定的な見解をとっていた(以下略)」らしい。へー。
「花よりもはかなく」○ロバート・エイクマン  美人に失望したカーティスと容姿にコンプレックスを持つネスタはめでたく結婚することになる。しかし容姿の問題は二人の間に燻り続けていた。結婚に関するホラー。さて、最後に悪夢をみるのははたしてどっち?

「リーゼンベルク」  F・M・フォード  義和団の襲撃(というから1900年ごろ)にあったドイツ人達は、ドイツの片田舎にある温泉療養所に移り住むが。リハビリものがいってん意外な展開をみせる。

 3もそうだけど巻末にややアカデミックな短篇小説史あり。個々の作者についての解説も丁寧で、正直こちらが書くことがあまりない感じもあったり。