『ミノタウロス』 佐藤亜紀

  いやあ面白いね、これ。評判通りの傑作。
 20世紀初頭、ロシア革命前夜のウクライナ、架空の村ミハイロフカで話は始まる。主人公はひょんなきっかけで地主となった男の息子。生来のならずものである彼は、時代のうねりとともにやがて野に放たれ、略奪と殺戮の世界を疾走する。
 変革の時代に起こる価値観の転倒が生む無秩序な世界が見事な筆致により目の前に現出し、その中で自らの欲望に忠実に行動する主人公には痛快さすら感じられる。引き締まった文章で描かれるウクライナの原野は美しく、我が物顔で闊歩する主人公たちの姿が絵画のように浮かんでくる。そして鮮やかな終幕。
  アクの強い登場人物たち、特に主人公のいかれた相棒となる脱走ドイツ兵ウルリヒの存在感が際立つ。また、時代をふまえた小道具の組み込みも効果を上げている。
 とにかく悪漢の暴れる面白本を読みたい人は是非!