<幻想と怪奇>ミステリマガジン8月号

 基本的に短編集が好きなのだが、特にいろいろな作家のものが入った良質のアンソロジーは、様々な味が楽しめるバイキング料理のようなところが嬉しく、なんだか得をした気分になる。中でも中村融さんのコースは大層美味で、ご存知の通り評判が高い。さて今回はミステリマガジンの<幻想と怪奇>特集でのお目見え(そういえばSFマガジンのクラーク特集?・?も中村融さんだな。ひっぱりだことはこのことか)。‘作家の受難’というサブタイトル、テーマは「実在の作家が重要な役割を果たす幻想怪奇小説とSF」。これまた(ある種の)ファンの心を鷲掴みである。こういうのを読むと「ああもっと本を読んでおけば・・・」という気にさせられてしまうのだから、世の中オソロシイ。以下特集の6作について簡単に。

「バーカー蒐集家」 キム・ニューマン タイトル通りブロックの「ポオ蒐集家」が下敷き(知ってるが読んでないな)。こんなクライヴ・バーカーマニア、きっとあなたの隣に・・・。<いないよね
「小人たちと働いて」 ハーラン・エリスン 若くして天才の名を欲しいままにし、評価も人気も得たノア・レイモンドは突如スランプに陥る。特集解説に出ているが、ちょう有名SF作家R・Bの沈黙期(そんなことがあったとは知らず)をネタにしている。
「怪奇写真作家」 三津田信三 怪奇写真家サイモン・マースデンにほれ込んだ編集者は、同じような写真を撮っているというある写真家とコンタクトを取ろうとする。まだほとんど読んでない作家だけど、やっぱり人気通りの面白さ。マースデンの写真も見たくなる。
「一八四九年、九月末、リッチモンド」 フリッツ・ライバー 酩酊したエドガー・アラン・ポーの前に現れた謎の美女。これなんかポオをちゃんと読んでない状態でも十分面白いのだが、どうも表面的にしか楽しめてない気がしてねえ。ポオネタが(たぶん)ぎっしり詰まっていて、偏愛あふれた一品なのだろうな。とりあえずポオももっと読まなきゃだ。(ライバーがアルコール依存症だったとは知らなかった)
「ベストセラー保証協会」 ジョー・R・ランズデール 売れない小説家ラリーは、すっかり売れっ子になった昔の仲間ムーニーにコネをつけてもらおうとする。いわゆる奇妙な味系の楽しめる作品だが、著者が本当に売れてなかった頃のものだというのは印象的。
「棒」 カール・エドワード・ワグナー 怪奇雑誌の表紙など不気味な絵柄を得意とする画家レヴェレットの頭にはマン川流域で見た忘れることが出来ない光景があった。これまた恥ずかしい話ラヴクラフト経験値がゼロに近くて・・・。モデルとなっているのはリー・ブラウン・コイというイラストレーター(実際の絵も載っている)で、驚くべきことにマン川流域のエピソードはほぼ実話らしい。