‘ダークナイト’

 なるほどこれはイヤーな傑作。
 元々コミックのバットマンは読んだことがなかったし、アニメの記憶もあまりない。ティム・バートン以降のバットマンは主にテレビで観た程度(‘リターンズ’は評判どおりのすごさだった)。一方、クリストファー・ノーランは割りと好きな監督だが、‘バットマンビギンズ’はあまり評判が良くなかったので観てなかった。(こんなことなら観ておくんだった←他人の評判を気にし過ぎての非常に悪い例。良い子のみんなは真似しちゃダメだよ!)
 というわけで、そんなさあのうずが期待をしたのはもちろんジョーカーの悪役ぶり。実に背筋が寒くなる21世紀の悪夢(主にテロ)・虚無を画面に現出させた名演技のヒース・レジャーおそるべし(そして最後の演技となってしまったその若すぎる死、哀し)。本来コミックである原作に対して、ノーランのリアルにこだわった演出が有効なのかどうかという意見もあるようだし、確かに善と悪の対立という絵空事が表現がリアルな分逆に作り物っぽくみえやすい感はある。そのためかバットマン自体の苦悩といったところはあまり感じられない。さらにそういった辺りからアメコミやフィクションにおける善と悪、なんていう話に発展するととてもではないがこちらの手には負えない大事になってしまう。そんなわけで、これはジョーカーについての映画なのだ、と割り切ることにするとやっぱりお見事としか言い様がない。ジョーカーのテンポ良く繰り出される酷薄な行動は、リアルな表現でしか出来ないような種類のものだと思うからである。