『小野瀬雅生のギタリスト大喰らい−炎のロック★ギタリスト大全−』

 これは面白い!70〜80年代のロックを10代の頃聴いていたさあのうずのような人間にとって、本書はめったにないプレゼントのような本である。ノッサン本当にありがとう!同世代ネタが多く、クレイジーケンバンドのファンや1960年代生まれあたりのロックファンには特にオススメだけど、むしろ若いロックファンやクレイジーケンバンドをよく知らない人達にこそ読んでほしい一冊でもある。
 ご存じない方のために、著者の小野瀬雅生は1962年生まれのギタリスト。万能ギタリスト(例えばライヴで三味線を弾いていたのをみたことがある)である彼はクレイジーケンバンドの番頭(バンドの頭)、つまりサウンドの要ともいうべき存在。本書の内容は、総勢150人以上のギタリスト(大部分ロックでR&B系は少し)を自らの出会いなどを交えて解説するというものであるが、ミュージシャンが書いた本、しかも一風変わった食べ物たとえのスタイルから一見軽いタレント本のように見誤る人もいるかもしれないが、とんでもない。これは70〜80年代のロック史を日本の洋楽ファンの視点から描いたユニークかつ実に貴重な一冊なのだ。何より素晴らしいのは、ロックファン(=リスナー)としてのてらいのない音楽履歴の告白とミュージシャンとしての豊富な経験からくる理論的かつ感覚的な解析が共存することである。これはなかなか難しいことだと思う。ファンに視点に寄り過ぎてしまうと説得力の薄い単なる礼賛に終わってしまってその対象に興味の薄い人や苦手とする人に良さが伝わらないし、ミュージシャンの視点が強すぎると楽器専門誌のプレイ解説になり楽器を演奏しない人に伝わらない。そこは小説も書く著者のこと、まことに見事な塩梅である。さらに、本書には従来幅広いロックファンに向けてまともに語られることの少なかった、スコーピオンズやUFOやランディ・ローズなどメタル系、いわゆる産業ロック系、ちょっと忘れられ気味80年代バンド(フィクス、メン・アット・ワーク)にも、ギタープレイヤーとしてきちんと解説をしているところもなかなか類書にないところだ(ブラック・サバスの評価が高いのも見逃せない)。それ以外にも万能ギタリストらしく、実に幅の広いジャンルが扱われているので、しつこいようだがいろんな音楽ファンに読んでほしい(さすがにロックに興味のない人にはアレだけど)。もちろんなつかしプロ野球ネタやB級グルメネタがらみのたとえも非常に楽しい味付けでファンにはたまらない。
 クレイジーケンバンドのファンであり、殊能将之のファンでもあるさあのうずは本書の存在をa day in the life of mercysnowで知ることになった(ノッサンの日記だってまめに読んでいるのに。日記でももっと派手な宣伝をしてもいいと思うのだが、控えめというかノッサンらしいというべきか)。で、殊能さまご指摘の通り、本書には索引がないという非常に残念な点がある。また曲については邦題のみが載っているものも多く、原題も併記して欲しかったところだ。これは、うがった見方かもしれないが、本を出す側が著者がミュージシャンなのでここまで本格的で充実した解説本を書くとは想定しておらず、細部まで詰める準備が足りなかったのではないかとも疑う。索引については殊能さまに甘えて、これを。ちなみに殊能さまによる反ロック★ギタリスト大全も近い世代としては心動かされるものがあるのだが、その中で実際にきちんと聴いたことがあるのはアート・リンゼイぐらい。コンサートで本当にあのゴリゴリした音が出てきたんで驚かされた(それとボサノヴァの静寂が行ったり来たりするんで頭がクラクラしたよ)。