『ハーモニー』 伊藤計劃

 『虐殺機関』同様大変面白かった。

 21世紀になって大量に造られた新型の核弾頭は、2019年に北米を中心とする英語圏での大暴動<大災禍>により、第三国家に流出した挙句、結局世界各地の紛争に使用されてしまった。その後に未曾有の癌・ウィルス感染などの危機から、世界はWatchMe呼ばれる個々人の恒常的体内監視システムを利用した高度健康管理社会へ移行していた。その後の安定した‘優しすぎる’社会で、不満をかかえる女子高生霧慧トァン。優秀だが風変わりな同級生ミァハに、WatchMeがからだに入ってくる前に自殺をしようと持ちかけられ、もう一人の友人キアンと三人で自殺を図る。

 イントロ部分でこんな感じ。変わった名前の女子高生の主人公ということで、それだけで今回はライトノベル風!?とか思ってしまったのだが(なんと神様の名前だったとは!)、舞台はこの後すぐ13年後の戦場へと移る 。というわけで、『虐殺機関』の延長線上にある話である。『虐殺機関』は近未来的SFアイディアが現在の社会状況を浮かびあがらせるようなところが魅力であったが、今回はその持ち味そのままにより踏み込んだアイディアで後半には脳科学を中心に「意識とは何か」といったスケールの大きい話になってくる。なので、奇想好きのハードなSFファンも満足だろう。得意のスパイアクション的演出も盛り込まれているので、エンターテインメント性も十分。HTMLタグを取り入れた文体(SFマガジン2月号のインタビューに書いてあった)、時々出てくる美術ネタなど洒落たセンスも大きな魅力だと思う。

 以下、その『ハーモニー』と伊藤計劃さんのインタビューが載っているSFマガジン2月号。色だけでなく微妙に構図や絵柄が違う表紙が楽しい。