SFマガジン5月号 ベイリー&ディッシュ追悼特集

 待望の二人の特集号である。エッセイや特集解説をあっさり読み終えてしまうと、前にも書いたように二人いっぺんというのは分量が少なくて残念だなあと感じたのだが、短編がどれも両者の個性が出ていて気を取り直した。
 ベイリーとディッシュ。同じニューウェーヴSF期の作家でありながら、イギリスとアメリカというだけでなく、片や破天荒なアイディアと独自の論理構築で一部に熱狂的な支持を得たベイリー、片や文学的技巧に優れ多ジャンルの著作をものにした玄人筋で高い評価を得たディッシュ、
ある意味で対局の立ち位置にある作家ともいえる。ちなみにディッシュのSF評論集‘The Dreams Our Stuff Is Made Of’(いまだ読み途中)のIndexにベイリーの名は残念ながらみられないので、ディッシュがベイリーの作品をどう思っていたのか自分にはわからない。洗練とは無縁で破壊力が売りのベイリーと鋭い批評眼と同時に数々の傑作で今後も高い文学的評価を得るだろうディッシュが、英語圏ではない東洋の雑誌で特集として同席することになったことを天国でディッシュが知ったら苦笑しているかもしれない。それでも二人のたたずまいには、必ずしも十分な評価を得られなかった孤独な創作活動といった点で、どこか共通点があるような気もする。それぞれの立っていた場所はずいぶん違っていたかもしれない。しかし妥協を許さない創作および批評活動ゆえに孤高の立場とならざるを得なかった晩年のディッシュと誰も真似できない独自のSFを周囲の評価と関わりなく作り続けていたベイリーの姿はなぜか重なってみえる(晩年のディッシュの困窮は多少知っていたが、今回の特集では売れない兼業作家の状態でも書き続けていたベイリーの姿も大森さんの解説に出てくる)。そこには真摯な創作への思いがあふれていて、読者として心を揺り動かされるのだ。
 
 以下今回収録の短編について。まずはベイリーから。
「邪悪の種子」 待望の異星種族が太陽系に登場した。百万年生きたという彼は多くを語ろうとしなかった。傑作というほどではないけど、変な宇宙人がいい味を出している。
「神銃(ゴッド・ガン)」 友人ロドリックは神を打ち抜く銃を発明したという。神狩りですか。短いバー・ストーリーといった趣きだが、ベイリーならではのワン・アンド・オンリーの論理が展開される、実にらしい話。オチも含めてね。
「蟹は試してみなきゃいけない」 驚きの性春!蟹SF。いや本当にそういう話だとは。一読必笑の傑作。英国SF協会賞を受賞した人気作で
こういった路線の才能もあるんだなと感心したが、特集解説に出てくる本人の談話「どの作品がだれに気に入ってもらえるか、私の予想は昔から当たったためしがない」にちょっと目頭が。

 続いてディッシュ。
「ナーダ」 コミュニケーションを取るのが難しい少女ナーダには驚くべき能力があった。女教師の心理描写、伏線となる会話などやっぱり巧いなあ。
「ダニーのあたらしいおともだち」 スラデックとの共作。ジョークみたいな小品だけど、しっかり毒入り。
ジョイスリン・シュレイジャー物語」 実験映画批評家の主人公はある若い映画作家と恋をする。普通小説。「ナーダ」もそうだがディッシュにはニューヨーク作家としての一面があるのかもしれない。70年代のニューヨークのアーティストたちの生活が垣間見えるような作品でほろ苦さとしみじみとした味わいがなんともいえない傑作。