『ウォッチメン』 アラン・ムーア&デイブ・ギボンズ

 さて読み終わった。まずびっくりしたのは活字が多いこと、それから実に絵がカラフルだということ。細部まで描きこまれ絵、複雑な構成(コミック内エッセイ、コミック内フィクションといった具合の入れ子構造あり)読み進むのに予想以上に時間がかかった。
 というわけで十分に内容を把握できているわけではないけど、これは確かにすごい代物だ。ヒューゴー賞、タイム誌長編ベスト100選出も伊達ではない。映画自体も原作に忠実といわれるだけあって、それほど原作のストーリーと異なってはいない。しかし、全編がコミックの形式を十二分に生かしきるように作り込まれて、絵と活字の両面でサブリミナルな効果を演出しているのだから、どうにも映画化不能な部分があるのだろう。ヒーローものをリアルに描こうとしているのも、作者の意図であるのは間違いないが、映画の様な疑念は感じなかった。リアルに描くというのも作品の一面でしかなくて、むしろこれは20世紀(あるいは現代社会)をこうしたコミックの形式を使って表現した作品なのだと感じられた。コメディアンやロールシャッハアメリカの病根を示すキャラクターだし、Dr.マンハッタンの能力は制御できない(原子力などの)テクノロジーを暗示したものだろう。古典的なヒーローの枠から逃れられないナイトオウルは一番人間的ではあるが、ピークの過ぎたタレントのようにどこか物悲しくすらある。全体として冷戦を色濃く反映してはいるが、破滅の上の薄い氷に立っているような今の社会となんら違うものではなく、20年以上経た今なお衝撃的な作品である。日本のコミックとはまた違う方向に進化したアメコミ、いやこれまた知らなかった大きな世界があるなあ。
 ちなみにボブ・ディランやジミヘンは重要な意味を持ってるんだね。