『栞と紙魚子』?〜? 諸星大二郎 

 テレビドラマにもなった有名シリーズだが、マンガ全般にご無沙汰だったので、これが10年以上も前からある諸星大二郎のシリーズものだとは割合最近まで知らなかった。数ヶ月前に読んだ自選短編集の中の「生首事件」で、シュールでコミカルな要素がいい感じだったので、まとめて購入。やはり面白かった。どの作品もいいけど、ちょっと多いので各巻から数作ずつ感想(ちなみにドラマの方は全くみたことがない)。
?「生首事件」 悪気はないのにトラブルを引き込んでしまう栞と古本マニアで(変な)物知りの紙魚子というキャラクターが第一作目にしてすでに確立。生首を飼う二人のやり取りがおかしい。
「桜の花の満開の下」 桜の木の下には・・・という言葉をそのままホラーにしたダジャレベースの実にらしい作品。
「ためらい坂」 いったん登り始めたら絶対に引き返してはならないという<ためらい坂>。オチがいいです。
「それぞれの悪夢」 文芸部のホラーマニア洞野が作る同人誌の奇妙なホラー小説が実体化する話。栞の飼い猫のボリスが人間年齢のおっさん化するというベタと言えばベタな設定が、作者の独特の絵柄とあいまって不思議なユーモアを醸し出している。
クトルーちゃん」 「ボリスの獲物」にちらっと登場した怪物少女クトルーちゃんが本格的に活躍。このクトルーちゃん、お父さんの段一知、お母さん(名前はなんだっけ?)、ペットのヨグの一家はとにかく最高。ラヴクラフトは不勉強ながらほとんど読んでいないけど、問題なく楽しめる。テケリ・リ・リ!!
「おじいちゃんと遊ぼう」 これもクトルーちゃんもの。作家である段一知の原稿を取りに行った新しい担当の編集者が大変な目にあうのが泣かせる(?)話。
?「頸山のお化け鳥居」 クラスメートがお化けに出会ったのは、誰かが頸山神社に呪いをかけたせいらしい。この人の絵は本当に個性的だなあ。
「ラビリンス」 アミューズメント・パークの巨大迷路に行ってから、栞の家がおかしなことに。おおボルヘスですかー。
「魔書アッカバッカ」 紙魚子は古本屋の娘だが、その宇論堂に訪れる客も一癖も二癖もある連中ばかり。禁断の本をめぐる話は本について並々ならぬ情熱をお持ちの皆様方の爆笑を誘うことは間違いなし。
「殺戮詩集」 恐ろしい詩人菱田きとらの話。このキャラクターも強烈。いろんな登場人物を思いつくなあ。
「長い廊下」「頸山城妖姫録」 続きものの本格派歴史ホラー。こうした本格的なホラーものとコミカルなものが両方収められているのがこのシリーズの人気の秘密だろう。
?「ペットの散歩」「ゼノ奥さん」 強烈な個性を持つ絵柄だから、見えないペットという設定がより生きてくるんだよなあ。さすがである。二人が迷い込む街の風景が、以前の作品を思わせて印象的。
「本の魚」 本を釣る話である。そのまんまだもんなあ。この巻では全体に紙魚子の本へのこだわりがより目立っている気がするが、何ともいい味です。
「夜の魚」 夜の魚が泳ぎまわって、胃の頭町に行方不明者が続出するというお話。ラストを飾るにふさわしく、キャラクター総出演の大ドタバタ劇(他にもドタバタ作品は結構あるけどね)。こうしたにぎやかなドタバタ劇は『うる星やつら』でよくあったパターンの気もするが、テイストが違うところが面白い。
 他にもここで書かなかったインパクトのある登場人物が複数いて、いろいろな作品と絡んでいくのでそれも楽しい。シリーズ後半では多少コミカルな要素が強くなる感じが若干あるが、全体にシュールさと気色の悪さが一貫している上に作品の質も保たれているので、コミカルな面での代表的なシリーズなのも当然だ。