『幽霊狩人カーナッキの事件簿』 W・H・ホジスン

 有名な心霊探偵もので作者は『異次元を覗く家』がおぼろげな記憶ながら面白かったW・H・ホジスンということで、かなり期待して読んだがちょっと期待し過ぎちゃったかなあ。すごくつまらないというほどではないのだが、意外と読み進むのに苦労してしまった。

「礼拝堂の怪」 古い礼拝堂のついた城館で起こった、祭壇の短剣による事件。
「妖魔の通路」 人里離れた一軒家の霊現象の真相。
「月桂樹の館」 遺産として残された館の不吉な噂。
「口笛の部屋」 ある人物の購入した城館の一室に聞こえる口笛の音。
「角屋敷の謎」 カーナッキ自身が母親と住んでいた家で奇妙な臭いがする。
「霊馬の呪い」 不気味な言い伝えのある家の令嬢が婚約中に怪事件に遭遇。
「魔海の恐怖」 古い帆船で起こる異常現象の解明を船長に依頼されたカーナッキ。
「異次元の豚」 恐ろしい夢を見る男の耳には目が覚めても豚の鳴き声に似た音が。
「探偵の回想」 おまけ。上記短編のうちの数編のダイジェスト。マニア向け。

 謎めいた人物による思わせぶりな事件についての独白、という時代がかった形式、ミステリ・ホラーどちらも含んだシリーズの幅など要素としてはおいしそうなのだが、も一つハマれなかった。心霊現象描写やそれについての理論的な解説がくどく感じられ、どうにも頁をめくる手が停滞してしまう(この辺は当方のホラー属性が低いせいかもしれない)。日常的な理屈で解明される普通のミステリもあるので、その一方で心霊理論を熱く語られてしまうとなんだか一貫性が逆に失われる感じがする。それにミステリはミステリで大きな意外性は乏しいし。あと多少展開的にいい加減な作品もあったなあ(謎が残るというより、辻褄が合わせられなかったんだろ!といった感じの)。
 でもきっとそういった読み方はあまりふさわしくなくって、雰囲気を楽しむ作品なんだろう。いまだ人間の理解の及ばない世界が広がる中、そこを初めて切り開く様々な黎明期の現代科学技術が登場し、神秘と科学の交錯する魅惑的な時代の空気といったものがこの作品集にはある。電気式五芒星、回転式拳銃、旧式の写真機や写真用連射式フラッシュ灯、蝋管録音機、不気味な名の古文献(「サアアマアア典義」など)といった小道具に囲まれた悠揚迫らざるこの時代ならではの怪奇の世界にひたるのが一番の楽しみ方なのだと思う。