『超弦領域』 年刊日本SF傑作選2008

 2007年の日本SFベスト『虚構機関』に続いて、無事に2008年版の『超弦領域』が登場。して早2か月、ようやく読了。全体の感想は後で。○が特に面白かったもの。
※追記9/7 うわ「One Pieces」が抜けてたよ!慌てて入れる。
「ノックス・マシン」○法月綸太郎 機械による小説づくりが当たり前になった近未来で、パッとしない文学研究者が科学技術局のトップから召喚される。再読だがやっぱり面白いね。基本的に手の込んだジョーク、でお遊びな作品だろうけどよく出来ていて、ミステリ作家らしくうまーく話が収束していく手つきが鮮やか。
「エイミーの敗北」林巧 集合意識の話のようだが。うーん今一つ。
「One Pieces」○樺山三英 フランケンシュタイン博士とその怪物の混同、という古典的な間違いをネタにしてこれほどユニークな小説を作り上げるとは。フランケン化という得体のしれない状態が現代社会の陰画となっているような。最後に言及されていた『メアリ・シェリーとフランケンシュタイン』、積読していたが書棚から取り出し読みはじめる。
「時空争奪」小林泰三 河川争奪って知らなかったなあ。アイディアのスケールは凄いけど、この人にしては平板な印象。
「土の枕」○津原泰水 好奇心から他人の名を騙り戦争に参加した男の数奇な運命。この作家の作品は精読を要するので、まだ2冊しか読んでいないのだが、きちんと読むと面白いんだよねえ。これも面白かった。
胡蝶蘭」藤野香織 花ホラー。取り立ててどうということはない話だと思う。
「分数アパート」○岸本佐知子 前回に続いて今回も登場だが、こっちの方が面白いね。小田和正の歌が頭から離れない。
「眠り課」○石川美南 眠り課っていう言葉に吸引力があるね。
「幻の絵の先生」最相葉月 星新一本の小さな続編。ああいった評伝を書くのは大変だとか、思いもよらぬ人間関係が明かされたりするんだなとか考えた。が、これ自体はちょいと想像の域を出ないような微妙な話。
「全てはマグロのためだった」Boichi SFマンガを描くために物理学を専攻し、日本にやってきた作者の情熱に感動。マグロが全滅した未来にその復活を目指す科学者の話で悪くはないのだが、ちょっと長すぎ。
「アキバ忍法帖倉田英之 周囲を萌え狂わせるアイドル声優に様々な忍法を持つアキバ忍者たちの魔の手が伸びる。どうするマネージャー!アキバ忍者が揃う序盤の勢いが続けば大傑作だったんだがなあ。だんだん話がルースになり、期待通りの展開にならなかった感じ。こちらが萌えについて相変わらずよく分かっていないのも十分に楽しめなかった理由だろう。
「笑う闇」○堀晃 answer songsで既読。再読でマン/マシーンをめぐる問題が丁寧に描かれた奥行きのある作品だと気づいた。珍しい本格漫才SFでもあるし、収録は当然だろうね。
「青い星まで飛んでいけ」小川一水 ファーストコンタクトを目指す人工生命体の長い不屈の物語。クラークトリビュートの著者らしいポジティブな話。
「ムーンシャイン」○円城塔 “モンスター群”をテーマにした剛速球の数学SF。ネットを巡回しながら読了して時間がかかってしまったが、基本的には孤独な少女をめぐる切ない物語で抒情SFとしても直球といえるかもしれない。(ネット巡回での)補助線つきで理解したので自ら率先していうのは気恥ずかしいところもあるけど大傑作である。
From the Nothing, With Love」○伊藤計劃 著者の十八番である映画ネタ007のパロディというフォーマットで意識というSFらしいテーマを扱った作品で、これまた傑作。自己同一性について書いているという点では割と「土の枕」とも近いのかもしれない。
 本書も前回に続いて円城・伊藤が中心といった印象あり。本来は年1回のペースだが、『虚構機関』と本書は半年ぐらいしか間があいていないし両書の顔ぶれも何人か重なっていることもあり、二冊は二つで一緒というような要素が多少ある。というわけで、次の一冊こそ真価が問われるものとなりそう。