『未来警察殺人課』 都筑道夫

 都筑道夫、面白そうと思いながらあまり読んでいない。昔中学生ぐらいの頃、新聞の日曜版(巡回してみると朝日のようだ)にSF作家やミステリ作家のショートショートが交代で連載されていて、毎週楽しみにしていた。とにかくハズレの作品が無かった記憶があり、都筑道夫もそのメンバーの一人だったはず。他の雑誌でもショートショートは読んでいた気がする。あとはSFアドベンチャーに連載されていた『暗殺心(アサッシン)』、忍者ものながら日本ではない異世界を舞台にした独特の雰囲気のある作品だった。ただ基本的にミステリ作家という印象があり、若い頃はコアなSF指向だった(結局それも大した量を読めていないのだが)のですれ違い、現在にいたってしまった。
 さて『未来警察殺人課』。そんなすれ違いの時間(せっかく現役の時期に小説を読んでいたのになあ)が残念になるぐらいのSFミステリの傑作だった。昔は根本的にミステリの読み方がわからなかったからしょうがないんだけど。
 
 時は未来。人類は地球を捨てて、他の星に移住し数十世紀になる(各土地に何故か昔の地球の地名がついていて、いろんな言語も残っている)。コンピューターとテレパシーによる予防医学システムが発達し、殺人を犯しそうな人間は隔離され、極端に犯罪は減っている。表向きは殺人事件は三十年間起こっておらず、警察に殺人課は存在しない。しかし実際は殺人が起こる前にコンピューターの判断を元に該当者を処分する連中が警察の裏組織にあった。しかもそいつらはそうした健康管理システムでも矯正不可能な殺人衝動と特殊技能を持つ危険人物たちだったのだ!もちろんそうした連中だから、規定外の行動を取ればボタン一つで抹殺される装置が組み込まれている。主人公星野もその一人。抑えきれない殺人衝動を犯罪者に向け、スリルのある毎日を送る合法的な殺人者<殺人課>の星野が今日も事件を解決する!(以下各編の感想、基本どれも面白い)
「人間狩り」 年来の友人が自分の妻の愛人であったことを知った水沢は殺人を犯す危険性が高いと主治医に判断され、狩猟による解消をすすめられ、ケニア渡航した。しかし、その水沢が行方不明となり、星野はケニアへ派遣される。どの作品もなのだが、テンポよく展開が早く、ミステリやスパイ物やSFの美味しいところがこれでもかと盛り込まれ(登場する女性は各国のセクシー美女ばかり)、敵味方は二転三転ととにかくいたれりつくせりの満点娯楽小説であり、本作もその典型。
「死霊剥製師」 ニューヨークで捜査上のミスを犯してしまった殺人課の同僚が失踪。処分される予定となっていたが、星野は48時間の猶予をもらい、捜索を開始する。殺人課はどの国でも裏組織なので、いつも変なところにあり、ニューヨークではポルノショップでにある。あと裏組織だからということで、現地のスタッフと普通に接触出来ないという設定で、いつも変な形でコンタクトを取ったりする。そんなお約束も楽しい。ラストのどんでん返しにはおお!テンション上がったー。
空中庭園」 今回の舞台は東京。新宿に空中庭園ができたが、その設計者に犯罪傾向があることが判明した。そこに爆薬が仕掛けられて、特定の人物に反応するようになっているのだが、それが誰なのかが分からない。この作品に限ったことではないのだが、アクションも巧いんだよね、映像的というか。やっぱりテンポもよいし。クライマックスにはなかなか美しいシーンも描かれている。
「料理長ギロチン」 シェフとルビがふってある。日本から手強い犯罪者がパリに逃亡、どうやら麻薬組織と接触しているらしい。久しぶりにそいつを仕留めてやろうとパリに乗り込んだ星野だったが、麻薬犯罪を追う現地警察に麻薬捜査を優先してくれと言われてしまう。麻薬犯罪でターゲットが捕まってしまうとせっかくの殺人の機会を失ってしまう。そこで星野は。厳しいルールの中で、何とか殺人を遂行しようとするゲーム性の高さ、本格ミステリ度の高さが素晴らしい(何とか殺そうとするってのが可笑しいけど)。シャレの利いた(利きすぎ?)グロテスク料理の気色悪さについてもご一読あれ。
「ジャック・ザ・ストリッパー」 タイトル通りスコットランド・ヤードが登場。人口問題に関する国際会議に出席する日本の小児病理学者がイギリスの学者に殺意を持っているらしいのだ。終盤のジェットコースターでのアクションが最高。謎解きも、私は好きですよ。
氷島伝説」 画家として休暇でグリーンランドに出かけた星野。謎の熱病患者をきっかけに、やっぱり美女(新聞記者)と知り合うのだが、洞窟調査への参加に誘われる。いろいろな舞台を用意してくれる本シリーズだが、それぞれの舞台がきちんと生かされている話になっているんだよなあ。さすが。
「カジノ鷲の爪」 この星ではラスヴェガス海上にある。その中の最大のカジノ・ホテルには療養所がついていて、特殊な治療で犯罪傾向のある人々に対し異常に高い効果を上げているという。そこに日本から逃げ込んだ人物がいるというのだが、悪いうわさもあるラスヴェガスからの精密検査を信用できるのか。星野は現地に赴く。冒頭のボートのシーンとか007っぽくていい感じ。オチはなんというかお見事!と思ったんだけど、まさか解決を放り出した結果?面白いからいいけどね。
 
 まずは基本設定の凄さだけでも降参なんだけど、さらにサーヴィスが重ねられてるんだからもう腰が抜けそう。テレパシスト、原住民(他の星だから原住民がいる)といったSFの設定もちゃんと生きていてSFファン的にも満足。早速『未来警察殺人課2』をポチっとしてしまった。是非復刊してほしいです。