『ラヴクラフト全集1』 H・P・ラヴクラフト

 初めてちゃんと読むラヴクラフト。海や宇宙からやってくる化け物の奇怪さとともに人間が変貌していく恐ろしさがポイントなのね。話の筋というより、こってりとした描写が持ち味でしょうか。
インスマウスの影」 ちょっとしたきっかけからマサチュセッツ州インスマウスを訪れることになった主人公。誰もが敬遠するそのさびれた港町になにがあるのか。終盤の展開がなかなかよい。
「壁のなかの鼠」 忌まわしい惨殺事件のあった祖先の邸を再建する主人公。忌まわしい自らのルーツから逃れるのではなく、向かっていくというのがミソ。地下室の描写がなんだかすごい。
「死体安置所にて」 葬儀屋だったバーチ。彼が商売変えした理由は。グロテスクでユーモラスな味のある軽めの作品。
「闇に囁くもの」 マサチュセッツ州アーカムミスカトニック大学で文学を教える主人公は民俗学のアマチュア研究家。蟹のような化け物の言い伝えに懐疑的な立場をとっていたが、その生き物がいる証拠があるというヘンリー・ウェントワース・ウェイクりーからの手紙は信じがたい内容ながら興味をひかれるものだった。じわじわ怖さが迫ってくる王道な展開がいい。
 原書の方でもあまり使われない表現が多用されているらしく、やはりそうした雰囲気作りが大事なんだろうなあ。翻訳も大変そう。
 全く関係ないが現在読み途中の『跳躍者の時空』の編者あとがき(中村融)にラヴクラフトが手紙魔で、同僚には温かい批評を、年下には有益な助言を与えていたという。こういう話にヨワいんだよ。もっと読まなきゃな。