『他人の顔』 安部公房

 先日クラシック番組でやっていた映画「他人の顔」のテーマ曲がすごくよかったので、原作を手にしてみた。安部公房の小説はシュール・幻想系のものが多いから、以前から興味はあったが、これはあんまり面白くなかった(笑)。
 実験中の爆発で顔に大きな損傷を負ってしまった男。不安にかられて、とある医者の技術に倣って新しい顔である仮面をつくるが。
 本人の苦悩をめぐって展開する。人間にとっての顔とは何かとか、それが失われる苦悩とはといったことが独白で語られ、それがエンターテインメントではないので淡々と書かれる。それでも前半は科学書みたいな項目の羅列や数式が挿入されて結構楽しく読んでいられる。ただ中盤にさしかかって妻との関係とか自意識をめぐる話が多くなり、だんだん読み進むのが苦痛になってくる。重苦しいというのもあるが、そういう方向に話がいくとは思っていなかったとうこともある。別人格が仮面を使って暴れまわって、元の人格が自分は誰なんだというアイデンティティ・クライシスをおこすような話になると思っていたんだよな(ジキルとハイド?原作読んでいないけど)。ところが仮面をつけていても主人公は大して暴れず、元人格そのものは悩みながらも根底が崩れていくようなことがない。しかもその苦悩が個人的で、普遍性もいまひとつ感じられなくて・・・。
 匿名でブログやツイッターが出来る今とは時代が違う、といようなことを書いているうちにこちらもまた古びるわけだからまあその辺は置いておこう。そして今回は相性が合わなかったけど、別作品で再チャレンジすることにしましょう。