『アイ・アム・レジェンド』 リチャード・マシスン

 またまたマシスン。何といってもリーダビリティの高さがいいんだよなあ。ホントに読者を楽しませてくれる。
 
 夜になると奴らがやってくる。ネヴィルはドアの表にニンニクをぶら下げ、孤独に耐えながら夜が明けるのを待つ。悶々、鬱々としてアルコールに溺れながらも変わり果ててしまった世界を理解をする糸口をつかむべく自己流の研究を続けるが・・・。

 基本的には吸血鬼もので、古典的な吸血鬼のパターンが踏襲されるもののSF的アイディアでマシスン流解釈を成立させていくとことろが時代的に非常に斬新であったんだろうと思われる。道具立ての部分はさすがに時代がかっているけれども、アプローチがしっかりしているので登場する科学技術などは古くても、いわばハイテクのない時代の古典ミステリのようにさほどひっかかりなく読み進むことが出来る。その辺マシスンはやはり理知的な人だと思う。そして犬との出会いから物語が転調して、最後にタイトルの衝撃的な意味が明らかになるラストまでグググッと盛り上がっていく。素晴らしいなあ。名作。それでいて神棚に飾られるような立派な感じじゃなくて、手近な存在でもあるところがマシスンの良さだと思う。
 
 さて先日地上波でウィル・スミス主演の映画を観たがもう一つだった。荒廃したニューヨークの映像は見応えがあったが、辻褄が合わない点がところどころあったし全体にぬるい感じ。監督が意図していたらしい別エンディングというやつもちょっと検索してはみたが、原作に近くて多少評価が上がるもののそれで大傑作に転じる程でもないと思った(まあそんなこと言ってるより原作が影響を与えたというゾンビの方を観るべきなんだろうな)。ただもうひとつだけ。レジェンドのタイトルにかこつけてボブ・マーリーを引き合いに出すのは感心しなかった。「レジェンド」がいくら名盤でもベスト盤のタイトルでしかないというのもリスペクトが中途半端だし、そもそもこの作品の偉大さとボブ・マーリーの偉大さには何の関連も無い。それを置いておいても組み合わせとしてもミスマッチとしかいえないように思う。(ただ、検索してみるとボブ・マーリーの曲が出てくるということで喜んでいる方もいらっしゃるようで人それぞれだなあとも感じた。ボブの熱心なファンは懐が大きいのかも知らん。オレと違って)。