『せどり男爵数奇譚』 梶山季之

 古本屋や古本市によく行くといったって、買うのは自分が昔新刊で買い損なった本でせいぜい30年くらい前のもの。本書に登場する様なディープな古本の世界など全く未知のものだ。いやー古本の世界も奥が深いのう。

 文筆業を営む語り手‘私’の友人、華族出身の古本コレクター‘せどり男爵’こと笠井菊哉の出会った古本をめぐる奇妙な6つの事件。

 ミステリ仕立てで、古本についての様々な蘊蓄も楽しい短篇集。国際色も豊かで、韓国に古書買い付けツアーにいったり、一冊の本をめぐってアメリカ人古書マニアと虚々実々の駆け引きをしたり(第四話。このやり取りが実に面白い!)、イギリス・イタリアのカトリック関係者の動きを追ったり、香港の九竜城へ乗り込んだりといった具合である(ほとんど書いてしまったなw)。話としてはどちらかというと古本で金が動くといったものが中心なのだが、その分最後の第六話には意表を突かれた。心臓の弱い方には要注意、のなかなかショッキングな内容で逆にその手の話を読みたい人にはうってつけだろう。この手の話は知らなかったので、正直ちょっとびっくりした(バーカーの・・・と書くとばれるかしらん?)。
 昭和49年に連載されたもので、時代としては前になるが、古本の世界が広がるユニークなミステリ短篇集。著者は週刊誌のライターとして活躍(いわゆるトップ屋)、40半ばで亡くなっている。千夜千冊でも紹介されている