SFマガジン8月号(2010年)

 引き続きSFマガジンの感想。今号は浅倉久志追悼特集。
 巻末の全翻訳作品リストが凄い。まさかそんなものが出来るとは。関係者の熱意に頭が下がる。訳書の表紙を並べた今号の表紙の方もまた圧巻。
 名訳短篇再録ということで、5篇並んでいる。感想を。

「信号手」キース・ロバーツ ついつい積読してン年の『パヴァーヌ』だったが。今回こうした形で浅倉訳の方を読むことになった。こういう話だったのか―。イギリスの地方の風景の中でローテクな通信手段が描かれるという実に渋く想像力を刺激する作品。通信手段が結構な重労働であるという設定が巧いなー。このパートだけだと改変歴史物の要素は目立たないんだな。とにかく全編読まなきゃ。
「田園の女王」R・A・ラファティ じいさんの昔の投資話。あれが時代の分かれ目じゃった・・・。意外とストレートな文明批判に受け取れる。
「ドローデの方程式」リチャード・グラント 歴史学者が書庫の奥から発見したドローデの方程式。その方程式の意味は。派手さはないが、美しい自然描写の中に一瞬の時の流れを切り取った名品。時の扱いが見事なんで、若島正先生に「タイム・マシン文学史」(『乱視読者の新冒険
』)の流れで解題してほしい感じ。
「このあらしの瞬間」ロジャー・ゼラズニイ 遠い辺境の星、冷凍睡眠による宇宙航行を繰り返し年を取るのが遅い男の人生は。ゼラズニイ正直多少苦手なんですよ。アメリカンで気障な感じがどうもね。でもこの作品は良かった。
「自転車の修繕」ジェローム・K・ジェローム 『ボートの三人男』読んでないんだよな。百十年前の作品なのに普通に可笑しいんだからなー。こうした浅倉先生のユーモアものもおさえておきたいところ。

さて特集とは関係ないが「サはサイエンスのサ」鹿野司氏がニセ科学との共生について含蓄のあることを書いている。色んな人がいる、のは事実で確かにニセ科学には頭が痛くなることが多いけど共生の道を探ることも重要だよなあ。