『淑やかな悪夢』英米女流怪談集 倉阪鬼一郎・南條竹則・西崎憲 編訳

 『怪奇礼讃』が面白かったので、手に取った。こちらは女性作家限定の怪奇幻想短篇集。全体としてはまあまあくらいかな。(気にったものに○)

「追われる女」シンシア・アスキス 「先生、わたし不気味な男に追われている気がするんです」精神科医問診ものですな(<たったいま命名)。なかなか切れ味がいいです。
「空き地」メアリ・E・ウィルキンズ−フリーマン タウンゼント一家は商売をしていた地元を後にして都会へ引っ越すことに。住むことになった格安の家はわけありで・・・。うーんよくある話かな。
「告解室にて」アメリア・B・エドワーズ ライン河の上流を旅すいていた主人公。一見人気のない教会には一風変わった人物がいた。話としては普通だが、豊かな自然を背景にした空気感がなかなかよい。
「黄色い壁紙」シャーロット・パーキンズ・ギルマン○ 医者である夫のすすめに従い気の進まないなかでとある屋敷で神経の治療を受ける<わたし>。独白が効果的に使われ、正気と狂気の境界が崩れていく実に怖ろしい話。
「名誉の幽霊」パメラ・ハンスフォード・ジョンソン 「ええ、うちでは幽霊がオルガンを弾くんですのよ。ご覧になる?」好きなタイプの軽妙ホラーだがまあ普通だな。
「証拠の性質」メイ・シンクレア 深く愛していた妻を失い、若い後妻を迎えたマーストン。彼に訪れた悲劇とは。これも悪くはないが普通だなあ。
「蛇岩」ディルク夫人○ 凄涼の果てといった北方の城に住まう母娘。やがて成長した娘は激しい思いにとらわれる様になる。美しく残酷で深い余韻の感じられる幻想小説。これが集中No.1かなあ。
「冷たい抱擁」メアリ・エリザベス・ブラッドン 若き芸術家には恋人がいたが、次第に彼の情熱は冷めていった。これもありがちというかもうひとつな感じだなあ。
「荒地道の事件」E&H・ヘロン 心霊探偵フランクスマン・ローの話。うーん普通。
「故障」マジョリー・ボウエン クリスマス・イヴに友人を訪ねる行程で鉄道の故障にあい、長い夜道を行くはめになった主人公。どうということのない話に思えるなあ。
「郊外の妖精物語」キャサリンマンスフィールド○ B氏一家の朝食風景。庭にいるのは雀たち。短いが奇妙な味の好きなタイプの作品。
「宿無しサンディ」リデル夫人 とある若い神父が出会ったのは悪魔。怖ろしい提案を受け入れてしまった彼を待ち受けていたのは・・・。うーんこれも微妙だなあ。

 というわけで期待が大き過ぎたのかなー。○をつけた三作品は傑作だと思うんだが、ちょっと既視感のある感じの作品が多かった印象。せめたもう少しインパクトのある作品があればなあ。どちらかというとあまり女性作家らしいホラー(例えば「黄色い壁紙」のようなジェンダーテーマが感じられるような)が必ずしも多くない面もちょっと事前の予想と異なっていた。まあ女性作家によるホラーということでちょっとこちらの先入観が強かったのかもしれない。最大の問題として基本ホラー体質に欠けているということもあるのかもしれないが。