『時の娘』ロマンティック時間SF傑作選

 中村融さんのアンソロジー。すぐ購入したのだがちょっと遅れて読了。
 ロマンティック時間SFっていうと梶尾真治「美亜へ贈る真珠」とか映画「タイムアフタータイム」とかの印象かなあ。確かにそういった甘酸っぱい青春ものの香りがする作品もあるが、技巧的だったり苦味が混じっていたり、なかなか変化に富んでいる。気恥かしくなるような青臭いものばかりだったらどうしようと思ったがさすがにそんなことはなくオジサンでも安心して読める短篇集だった(笑)。基本的にどれも傑作。
「チャリティのことづて」ウィリアム・M・リー 1700年熱病におかされたチャリティは250年先の少年と話が出来るようになる。典型的な「時を隔てた恋」のパターンだが、ちょっとしたひねりが効いていて面白い。
「むかしをいまに」デーモン・ナイト 彼が覚えているのは雨が降っていたこと。これはボーっと読んでいて最初は全く仕掛けに気づかず。気づかなかったときいったい自分は何を読んでいたのかと後から思う。いやあ読書って深いなあ<ぼんやりしていただけのくせに
「台詞指導」ジャック・フィニイ 美人だがまだ未熟な駆けだし女優ジェシカ。ニューヨークでロケ中に不思議な出来事が。いまだにフィニイはちゃんと読んでいないが、こうした時間テーマを扱わせると抜群にうまい。ほどよい苦さもある傑作。
「かえりみれば」ウィルマー・H・シラス ミセス・トッキンはある教授の手引きで人生をやり直したことがあるという。軽妙なコメディ。
「時のいたみ」バート・K・ファイラー 時をさかのぼる度に老けていく男。妻は複雑な思いで彼を迎える。これは紹介の通り、ロマンチックだけど苦い大人の味わいがある。いいですよこれ。
「時が新しかったころ」ロバート・F・ヤング 白亜紀後期にタイムトラヴェルした男が出会ったのは火星からやってきたという二人の子どもだった。タイムトラヴェルに宇宙人にアクションという盛沢山な娯楽作品。
「時の娘」チャールズ・L・ハーネス 讃美者に囲まれ成功をほしいままにする母に嫉妬を抱き続ける娘。その母の秘密とは。非常に凝った作品。さすがに謎の一部はすぐ割れるが、独白とういう形式が内容とマッチしていて、緊迫した二人の雰囲気が漂ってくるような作品。
「出会いのとき巡りて」C・L・ムーア 奔放に生き世界中を冒険しつくし退屈するようになってしまった男にタイムトラヴェルのチャンスがやってきた。悠久の時を超える愛、という壮大な話でこれこそSFの王道といえる作品。
「インキーに詫びる」R・M・グリーンジュニア 時の流れの中、モイラに対し悔いの残るやりきれない思いを抱えるウォルター。いったい彼とモイラに何があったのか。これはなかなか複雑なつくり。要再読だなこりゃ。でも悔恨の思いには共感するところもあって、十分には理解できないながらもラストにはグッと来る大変ユニークな作品。

 テーマアンソロジーなので傑作がならぶいい短篇集ながら、多少ネタや作品の雰囲気がかぶっているようなところがある。選者も多彩で面白い作品をきちんと揃えてくれているが、一方でその苦心が見えるような感じもある。まあこれはこうしたアンソロジーの弱点かなあ。