『ひかりごけ』武田泰淳

知り合いにすすめられたので読んでみた。どれも重い題材を扱っている感じだが、小説としてはなかなか面白い。
「流人島にて」少女を連れてH島に向かう主人公にはある目的があった。その昔流人がやってきた島に犯罪を犯した少年たちがまた送られてくるという話が背景になっている。登場人物の名前が義経や実朝と現実離れしていてミステリタッチなのでちょっと新本格っぽい(冗談ですよ!)。
「異形の者」飲み屋の女と同棲している主人公。女にいれあげている哲学者に絡まれるが・・・。っていう話だからコメディになると思ったよ。全然違って仏教色あふれる話になっていく。修行僧の生活がリアルに描かれている感じ。
「海肌の匂い」漁師のもとに嫁いだ町育ちの女。なかなか周囲に馴染めない中、とある長老の誘いで船に乗ることになる。閉鎖的な社会に拒絶される人間の話。ある意味これが一番現代的かな。
ひかりごけ」有名なカニバル小説。非常にセンセーショナルな題材を結局戯曲の形式にする理由が書かれている奇妙な形式で、ちょっと中途半端な感じ。現代の作家だったら入れ子構造とかにしてもっとうまく処理するんじゃないかなあ。題材に比べると作品自体はいまいちだと思う。
全体にすらすら楽しく読めるタイプの小説ではないけれど、普遍的なテーマが含まれているので興味深く読み進めることが出来る。