『オルガニスト』 山之口洋

ドイツの音楽大学ヴァイオリン科助教授である主人公の元に、友人からある新進のオルガン奏者の演奏を評価できる人物を紹介して欲しいとの依頼があった。高名なオルガン科の教授とは友人であった彼の天才的な弟子を通じて以前交友があった。しかし、いまや失踪してしまったその友人に対し彼は償いきれない苦い出来事があった。第10回ファンタジーノベル大賞受賞作。タイトル通りのストレートなオルガン小説。ミステリの要素でリーダビリティは高いし、著者のクラシックに対する造詣の深さ(こちらは詳しくないけど)、アイディアの詳細さには舌を巻く(工学部出身らしい)。オルガンという素材を使った技術と芸術をテーマにした小説でもあって、テクノロジーが大きな役割を果たしているのでこれはまさにSF(発表当時は舞台は近未来)。organには‘器官’という意味もあってその辺も織り込み済みだろう。クラシックファンにとってどうなのかはわからないが、正攻法な音楽小説として特筆すべき作品だと思う。