『NOVA3』書き下ろし日本SFコレクション 大森望責任編集

とり・みき万物理論が入ってることを知り、NOVA2をとばしてこちらを先に。これも読み応えのある作品が並んでいる。
万物理論[完全版]」とり・みき そりゃあもう爆笑ですよ。ちなみにワタシはなるべくSFとは何かという話題にはふれない方向で(笑)。
「ろーどそうるず」小川一水 真向直球勝負のバイクSF。この人も芸の幅が広いな。笑いあり涙ありで楽しい。
「想い出の家」森岡浩之 ハイテクメガネが浸透した未来。高齢化社会の様相がどうなるのかとか思ってしまう話。
「東山屋敷の人々」長谷敏司 家制度が依然として残る近未来、ただ一人抗老化術を受けた家長が君臨し続ける家。医療技術の進歩した未来の悪夢を描き続けるこの作家の姿勢に変わりはない。そして本作もまたユーモア風味ながらずしりとした重いものを残す内容だ。
「犀が通る」円城塔 さまざまな視点(非人間含む)から描かれた喫茶店の風景。やっぱり面白いねえ。ただオチがわからなかったな・・
ギリシア小文字の誕生」浅暮三文 ギリシア文字の由来を神話的に紹介、ってシモネタかよ!(笑)以後見慣れぬ外国の文字から変な想像が膨らむこと間違いなし!
火星のプリンセス東浩紀 書き下ろしアンソロジーに連載が入ってるなんて反則じゃん!読みきりだけどこれはNOVA2から読むべきだったなー。論客のイメージからは意外なほど正統派の火星SF。
メデューサ複合体」谷甲州 巨大人工構造物をテーマにした宇宙土木正統派ハードSFミステリ(長)。木星の描写と主人公が原因探求に知恵をめぐらせるところが読みどころ。
「希望」瀬名秀明 大森さんの解説にもあるが、万物理論パロディから始まったNOVA3が万物理論へのシリアスな回答ともいえる本作で締められるのは恐ろしいほどのシンクロニシティ。かなり難解な部分を有し、ある種反SFといった要素も内包した問題作のように思われるが、人間の認識や統一理論といったテーマに深く切り込んだ心揺さぶられる傑作。近年の長編も読まないとなあ。
 今回はSFらしい作品が多かった。ハイライトはやはり「希望」。「東山屋敷の人々」「犀が通る」もよかった。

追記 SFの定義に触れない、とかいってるそばから反SFとか書いて墓穴を掘ってる天然な自分に唖然。完璧な定義が出たら真っ先に消滅するな(笑)。あとシンクロニシティとか書いたがこれも大森さんのたくらみかもな。「希望」という万物理論を想起させる作品をトリに持ってくることを考え、とりさんに続きを描かせることを思いついたのではないか?