『華竜の宮』 上田早夕理

 大きな地殻変動により多くの陸地が水没した25世紀の地球。危機を乗り越えた人類は陸上民と海上民に分かれている。
しかし魚舟と呼ばれる海洋生物と生活を共にし自由に暮らす海上民と旧来の社会生活の様式を保った陸上民の利害は対立、外交官たちはトラブルの収拾に追われている。そんな中、地球にさらに大きな地殻変動の危険が迫っていることが判明した。
 昨年刊行された話題の一冊で、人気を博した『魚舟、獣舟』と同設定を使った長編。魚舟にあらわれるような遺伝子改変技術だけでなく地殻変動・地球環境・AI・と(ちょっともったいないくらい)ふんだんにSFアイディアが盛り込まれ、いずれも考察がしっかりしていて社会の移り変わりがどうなるかまで目配りが効いている。まさしく王道をゆくSF、と一言でいうのは簡単だが情報量が増えている現代でこれを成し遂げるのは大変なことだ。SFセミナートークショーでは人類や社会の変化をつきつめることに強い興味を持っているといっており、生来のSF作家なのだなあと思う。さらに今後を期待させる作家だ。