『ライト』 M・ジョン・ハリスン

M.ジョン ハリスン

発売日:2008-09

 本国での評価と日本での評価にずれがある人には興味をそそられる。日本ではニューウェーヴSF作家としてサンリオで『パステル都市』が紹介されたきりだったが、本国の英国さらには米国でもSF界ではライターズライターとして後進の絶大な支持を得てきたらしい。
 本書は2002年の作品。現代と未来の話が並行して語られる。現代パートは怪物の幻影におびえシリアルキラーになってしまった物理学者マイケル・カーニー。未来の方は400年後で宇宙船と一体化した女海賊セリア・マウ、同時代スラム街でくすぶってる元宇宙船パイロットのエド・チャイアニーズ、二人の主人公がそれぞれ別の話として進行する、ということで現代1足す未来2の三視点という構成。シリアルキラー+SFというパターンは新鮮で現代パートが特に面白い。一方未来のパートではセリア・マウの行動原理がいまひとつつかみかねるのが難かなあ。肉体忌避みたいなジェンダー的なアイディアの持ち込みはいい視点なんだけど(実際ティプトリー賞を受賞)、どうにも魅力を感じない。かなり違う三つのパートが終盤見事に融合するところは鮮やかでそれだけでも一読の価値あり。それだけに主人公の魅力とか破天荒なアイディアとか疾走感とかもう一声あれば大傑作なのにという印象。この辺が日本人読者とすれ違ってるのかなあ。
 とはいえ魅力的な設定の割りにやや淡白な印象のあった『パステル都市』よりこっちの方が好み。円熟味がでてきたのかも。本作の姉妹編でクラーク賞とディック賞を取ったというNova Swingは読みたいなあ(やや地味そうだが)。もちろんその『パステル都市』のヴィリコニウムのシリーズやSFじゃない作品もやっぱり気になるし、難しいかもしれないがもっと紹介して欲しい作家である。