『鳥はいまどこを飛ぶか』 山野浩一

日本のニューウェーヴSFの核でありながら、なかなかその作品をまとめて読むことの出来なかった山野浩一作品がなんと2冊しかも文庫という手にし易いかたちで登場。これは素晴らしい企画ですよ!パチパチパチ。で、やはりユニークな作品ばかり。
「鳥はいまどこを飛ぶか」 冒頭から順番を入れ替えて読んでもいい、という実験的な作品。実はかっちり作られているわけでもなくて多少そのルールにはルーズなところもある。むしろ鳥の飛ぶイメージが印象深い。
「消えた街」 新しく出来た団地に住むエリートサラリーマンが失踪。ほどなく彼は戻ってくるが・・・。なんかウルトラセブンにも似たようなネタがあったな。何も無いところに急に出来た団地が非現実的に感じられたということなんだろうと思う。そういう意味ではその時代らしい(1964年初出)作品。
「赤い貨物列車」観光地から大阪へ向かう列車の中の出来事。シュールな出来事と内省的な私小説風な語りが融合した雰囲気のある作品。不思議と印象に残る。
「X電車で行こう」 ジャズと鉄道の薀蓄が交互に語られるスタイリッシュなデビュー作でいまだにカッコいい小説。何度目かの再読だがやっぱりいい。鉄道路線知識にも舌を巻く。
「マインド・ウインド」各地にあらわれる散歩族。その背景にあるのは。自作解説に「普通小説も書けるという不純な動機で書いた」と正直な(笑)反省の弁がある。アイディアの方もあのネタでさすがにちょっとなあ。
「城」自作解説でこれも「すぐ結末が分かる」とキビシい評があるが、よく出来たニューウェーヴ風味のショートショートだと思う。
「カルブ爆撃隊」係長に飲みに連れられた主人公だが最後に係長は交通事故で死亡してしまう。目撃者として事情を聞かれるうちに・・・。こういう巻き込まれ型主人公の話が多いのは日本SF本流とも共通する部分かな。シュールな完成度の高い作品。
「首狩り」会社をクビになった<私>は金に困ってスーツケースを盗む。しかし中に入っていたのは生首だった!作者がこんなのを書いていたとは意外な奇妙な味の生首小説。特有の論理性が予想外の方向へ展開する個性的な作品で本書中イチ押しです。
「虹の彼女」謎めいた女を追っていたら・・・。終盤のイメージが鮮やか。タイトルの元ネタはアレか!
「霧の中の人々」山登りに出かけた主人公はそこで出会った男に奇妙な依頼を受ける。どうやらふとした語呂合わせからアイディアを得た作品のようだが、そうは思えない深遠さを感じさせる。幻惑されているのかもしれないけど。

 シュールで静謐といったテイストの作品が多いので読者を選ぶ作家だと思うが、冷静な自作解説(←めちゃくちゃ面白い)で分かるように書くことについて非常に自覚的なので示唆に富む作品が多い。是非是非長編のほうも復刊して欲しい。