『きことわ』 朝吹真理子

朝吹 真理子

新潮社

発売日:2011-01-26

 さて芥川賞が話題になっているので、以前受賞の時に読みそびれた本書を思い出し読んでみた。好きな要素がちりばめられているので心地よく読むことが出来た。1980年代に仲良しだった年の差7歳の幼馴染が、25年ぶりに再会する話。基本的には甘く懐かしい子ども時代の過去と現実が重く響く大人になった現在との落差が語られるオーソドックスな小説。その25年の落差を中心に、小さい時間と大きい時間が滑らかに行ったきり来たりするところが読みどころ。小説というのはやはり時間を描くものなのだなあと感じた(壮大な空間も垣間見えたりするが)。それを成り立たせる五感に訴えかける描写も巧みで、特に様々な穏やかな優しい香りに満ちた表現が印象深い(「失われた時を求めて」を意識しているのだろうか、とにわか勉強でいってみる)。日本的な情景描写も自然に交えて、やや流麗過ぎるという気もしないでもないが、いい小説だと思う。(個人的には葉山が舞台なのもツボ)