『失われた時を求めて 抄訳版?』 マルセル・プルースト

 最後の巻はこれまでより読みにくい感じがしたが、死後に不完全な遺稿をもとに出版された第五から七篇のさらに抄訳だからなのかもしれない。それでも劇的な展開があったり、第一次世界大戦が勃発して雰囲気が一変したりと見せ場は多い。最初の方のアイスクリームや物売りの歌など庶民的な生活の描写も興味深い。最終的にはメタフィクションとして本を書く話に帰着していく(『ダールグレン』!他にも「虫食いのノート」など影響がうかがえる面がいろいろある)。芸術論・文学論方面の内容は相変わらず難しいが。
 「失われた時」について考えると、過ぎ去った輝かしい過去への追憶・恋人の二重生活に気づかなかった後悔・老いに伴う哀しみなどが示唆されるのかなあなどと考えた。さて全編読む日はやってくるだろうか(笑)。
 他雑感。寺院そのものが福音書、という考え方は面白かった。最後の方で登場する「悪い風邪」は「スペイン風邪」だろうな。一箇所笑えるところがあって、空襲の最中パリの地下で男女入り乱れちゃう退廃的なシーンがあるのだが、あまりにすごいので引用。「−サロンなら(少なくとも昼間なら)恋のかけひきがつづくところだろうが−(中略)ところが暗闇になると、こうした古臭い手口はことごとく棄てられて、手、唇、肉体が真っ先に動きはじめる。たとえあまり歓迎されなかったとしても、暗闇そのものが言訳になり、暗かったので人違いをしたといえばすむ。」ってマルセルさんなにいってんの!(笑)