『ねじまき少女』 パオロ・バチガルピ

 話題の若手SF作家の第一長編。ヒューゴー賞ネビュラ賞ローカス賞第一長編部門、ジョン・W・キャンベル賞と4つも賞を取っている話題作。なかなかユニークな作家・作品である。
 環境は破壊、石油は枯渇、海面上昇で世界各国の沿岸都市は消失した近未来。一方バイオテクノロジーは制御不能なくらい進歩し、蔓延した植物病への耐性のある遺伝子組み換え穀物の技術を掌握するカロリー産業が莫大な権力を握っている。そしてエネルギー源は遺伝子操作された象=メゴドントの労働により巻かれるゼンマイ。水没をのがれたタイ王国バンコクを舞台に、企業家・日本生まれアンドロイド‘ねじまき少女’・環境省の熱血隊長・摂政などなどが異様でペシミスティックな社会の中で蠢く。
 よくこんな世界を思いつくなー。嬉しいことにおかしな世界なんだけど作者が真剣に想像力を駆使して作り上げていることが分かる。好感度高し。あとこの作家陰鬱な未来像を描いて人類というものに絶望している面がある一方で、熱いヒューマニズムも感じられる。そうした両義的なところも魅力。ただ小説としての出来はあくまでも第一長編らしく完成度が高いとはいえない。数名の視点ですすむんだけどあまり効果的ではなく、下巻では展開はややもっさりとして終盤の盛り上がりも今ひとつ。刊行からやや遅れて読んで随分評価が高かったために少々期待し過ぎたかなあ。
 第一長編であることを考えると十二分に満足な出来だし、舞台やアイディアなどとにかく新鮮。ゾウSFだから少し点は甘めにしておいた(笑)。