『L'INCAL アンカル』 アレハンドロ・ホドロフスキー:作 メビウス:画

 BD(バンドデシネ;フランスのコミック)が日本の漫画に影響を与えたらしいことは知識としては知っていたけど(画のメビウスの名前はなんとなく聞いたことがある程度)、そのBDを今回初めて読んだ。

 R級ライセンスを持つさえない私立探偵ジョン・ディフールは、ひょんなことから宇宙の命運をつかさどると言われる謎の生命体“アンカル”を手に入れる。アンカルをめぐり、政府、ゲリラ組織、宇宙征服をたくらむ異星人など、さまざまな思惑が交錯し、ジョンは図らずも光と闇をめぐる壮大な宇宙抗争に巻き込まれていく。はたしてジョン・ディフールの運命は?(帯から)

 1981〜1988年に刊行された名作中の名作らしい。当たり前のことながらまずはビジュアルの凄さに圧倒される。未来都市、地下都市の酸の海、テクノ要塞、巨大なゴミ捨て場、水の惑星などなど次から次へに様々な色で描かれた鮮やかな舞台が展開。そこに惜しげもなく投入されたアイディアによる宇宙船から‘内なる太陽’といった大道具から通信機のような小道具まで登場してアクションが繰り広げられるのだから片時も飽きさせない。個人的にはクラゲよかったですよクラゲ。アンカルのパワーで常人を超えた能力を身につけることになり宇宙の命運を担わされるにもかかわらずあくまで能天気で勝手気ままなのキャラクターなのも楽しい。相棒の鳥(何の鳥?)ディーポも大活躍なのだが飼い主似の能天気なキャラクターでこのコンビの明るさが激しい闘いの話なのに軽妙さをもたらしている。瞑想など東洋思想的な側面が重要な役割の果たしているところも映画‘スター・ウォーズ’などと合わせ、70〜80年代にかけてのSFの特徴として興味深い。あと中身は極彩色なのにモノトーンの表紙というセンスもにくい。
 原作のホドロフスキーは‘エル・トポ’の監督なんだな。観たはずなのに思い出せない(苦笑)。