『第六ポンプ』 パオロ・バチガルピ

 海外SF話題の新鋭バチガルピの第一短篇集。暗い世界観と秀逸なアイディアに独特の熱さが加わり非常に個性的で今年の重要作といえそう。

「ポケットの中の法(ダルマ)」 成長する結晶構造による建築物のイメージは鮮やかで見事なデビュー作。
「フルーテッド・ガールズ」 肉体改変されフルートになった体を見世物にさせられる少女。どことなくパンクファッションに身を包み自傷行為を繰り返す人々を思わせ、ゾクッとくる。
「砂と灰の人々」 汚染された世界で生きる人々がはじめて生身の犬と出会う。これも終末感が漂うんだけど登場人物たちの諦念と焦燥感が混在した感じに現代的な空気があるんだよね。
「パショ」 部族対立の中、社会の安定を保つ役割のパショ。ストレートに現代社会の問題を扱っている。
「カロリーマン」 「ねじまき少女」と同じくねじまきがエネルギー源になった閉塞感漂う歪んだ未来社会を舞台にした話。このシリーズ設定がゴチャゴチャして読みにくい印象あるが、これはシンプルで分かりやすい。
「タマリスク・ハンター」 これは水資源が枯渇した未来の話で、絶望的な社会で生きる人間を描くという姿勢は一貫していてその硬派ぶりは応援したくなるんだよな。
「ポップ隊」 不老長寿技術を施し子どもをつくらない社会で非合法に子どもを産む人々を取り締まる非情な捜査官。Pop squadという軽い響きと胸の悪くなるような設定の落差にこめられた皮肉にこの作家らしさがあると思う。
イエローカードマン」 これも<ねじまき>世界に登場するイエローカードマンといわれる難民の話。良くも悪くもコンパクトな「ねじまき少女」といった感じで、短い分まとまっているわけではなくやっぱりゴチャゴチャしていてもう一つ。
「やわらかく」 殺した妻と入浴する男。いわゆる奇妙な味系で、これは好き。お題を与えられて書くアンソロジーの作品のようだが、かえって肩に力が入らず成功しているように思われる。書くべきテーマをしっかり持っている人だけに、書きたいものを全部盛り込もうとして失敗することもあるんじゃないのかなあ。
「第六ポンプ」 有毒物質で知能低下した人類が壊れゆく文明社会の中でもがく。再読。作者らしさがよく出た傑作で、集中でもNo.1。ニューヨークが舞台なんだなあ。本書の裏に載っている原書の表紙が素晴らしくカッコいい。原題のPump sixも破裂音を主体としたトンがった響きがあってパンクっぽい感覚を感じる(サイバーパンクというよりその元である70年代パンク音楽の熱さとDIY精神の影響が強い、というのが私見)。Pなど破裂音のつく作品タイトルが多いのも気合のあらわれ?
 
 

 核となるはずの「ねじまき少女」と同じ舞台の<ねじまき>ものが必ずしも読みやすいとはいえず悩ましい点はある(現代社会の問題への目配せなど世代的にも伊藤計劃と共通する部分があるが、バチガルピの方がぎこちない
)。が、十分にインパクトがあり間違いなく年間ベストに上がってくるだろう。