『双調平家物語9 平治の巻(承前)』 橋本治

  今年の大河ドラマは‘平清盛’で、武士らしい直情的な人物として描くという新機軸でなかなか面白く珍しく続けて観ている。ということで、中断していた本作の続きを10年ぶりに読んでみることにした。当初12巻だったのが14巻に変わり最終的には16巻になったのも、1巻目に安禄山など中国の叛臣伝を丁寧に描くことからはじめていたのだから予想されたことなのかもしれない。
 この巻では保元の乱の後に貴族社会が衰弱し次第に武士が力をつけていくなか信西と信頼の権力争いを契機に平治の乱に突入する展開。作者らしい同内容の繰り返しの多い文章、多くの登場人物の行動原理を細かく追って話を進めていく手法には好き嫌いが分かれるように思うが、安易な物語性に依存しない姿勢は支持したい。権力の地位にあるものが地位を追われ惨殺さら、親が子に討たれ、幼若な子どもらまでもが非情にも斬り捨てられるような過酷な時代、移りゆく世に人は気づかずに翻弄されていくというテーマがはっきりと浮き上がってくる巻である。男色方面で暗躍する人々の話も面白い。
 P202の「性技の巧みさで頼長を感嘆させた三男の成親である」という文に何事?と思ったが、ググってみると藤原頼長という人が『台記』という日記を書いていて、そこに男色のことが沢山載っているらしいから誇張された表現ではないのだな。ほほう。