ロジャー・コーマン特集@新宿武蔵野館

 ‘B級映画の帝王’といわれる一方で数々の映画人を育成したハリウッド伝説の人物ロジャー・コーマン。これまで名前は知っていたが観たことがあったのは‘リトル・ショップ・オブ・ホラーズ’くらいだが、ちょっと興味があり新宿の武蔵野館ドキュメンタリー映画などプチ特集をやっていたので行ってきた。

‘デスレース2000年’ ドキュメントだけだとなんなんで本領発揮の作品の方も観た。未来社会(ディストピア)の殺人レースの話。どの車も男女のペアで、ドライバーが性悪女(カラミティ・ジェーン)、ナチ女、暴君ネロ、銃乱射男(スタローン)、ツギハギフランケンシュタイン(主人公)とくるだけで内容がわかるくだらねえ話(ほめてます)。でもところどころ反権力というか反骨精神みたいなものが感じられるのが面白いんだよね。こうしたディストピア+娯楽スポーツ(‘ローラー・ボール’とか)っていつごろからあるんだろうなあ。

コーマン帝国’ で、そんな映画ばっかり撮っていたお人はスタンフォード大学で経営工学の学位を取ったインテリだったのである。物腰も柔らかく落ち着いていて、関係者も言っているように製作した映画とのギャップがスゴい(笑)。映画製作に関しては徹底していて、予算は必ず安く上げ、そのため手段はゲリラ的だったり何でもやる。そのエピソードの数々が実に楽しい(例えば台本の横に「ここで裸入れる」、とか「爆発入れる」とか書いてあることもあったらしい) 。若い頃に功績が正当に評価されなかったことからインディペンデントの方に流れたようなのだが、どうも元々他人に頭を下げるのが嫌な人物のようだ。その分、面倒見はよくてどんどん周囲の人にチャンスを与える。奥さんも仕事のパートナーなんだけど、彼女自身経験もないのにロジャーにいつの間にかプロデューサーに仕立て上げられていて「任せられると思うとどんどん任せるのが彼のスタイル」と言っていたのが可笑しかった。ちなみに奥さんも上品な美人で、二人揃うとホントに高名な大学教授の夫婦のようで絵になる。B級ホラーやSF、エクスプロイテーションといった彼のやり方が‘ジョーズ’や‘スター・ウォーズ’の時代になると大手映画会社によって(巨額な制作費で)模倣されるようになり、彼としてはやりにくくなってしまったようだ。変革の時代ならではの人物とも言えるのかもしれないが、淡々とわが道を行く姿は実に清々しく何かスカッとさせられた。ちなみにパンフレットには江戸木純氏による「史上最大のコーマン映画目録全460本」があって、貴重な資料であろう。それに読んでいるだけでも楽しくなっていろいろ観たくなる。