双調平家物語〈11〉平家の巻(承前)  橋本治

 源氏を退けた平氏は、藤原一族など貴族が衰退し天皇家も政治に主体的に関わる人物が出ない中で次第に権力の中枢に入っていく。しかし肝心の家長清盛は欲のない人物だった。
 権勢を誇った挙句壊滅してしまった平氏の中心人物だったために傲岸不遜な印象しかない清盛だが、ここで描かれているのは慎重で争いを好まない我慢強く上司に忠誠を誓う横顔が描かれている(自らの意思は乏しく忠誠を誓うばかりなので「狗」というきつい表現が出てくる)。野心ということではむしろ義弟の貴族平氏の時忠の上昇志向が目立つ。ただその野心の乏しさがゆえに乱世を生んでしまう皮肉を予感させつつ、表向きは穏やかで敵のいない平氏全盛時代が描かれて終わる。
 野望陰謀権謀術数といった話が多いので、多少地味で暗いかな(相変わらず回りくどい表現が多いしねえ)。それでも大河ドラマの主人公清盛の考え方や心理がじっくりと書かれているので楽しめる。それから後白河上皇はなかなか興味深い人物だなあ。気ままで周囲が予想だにしない行動や発言をして世を混乱におとしめる。トリックスター的ともいえる人だが、何よりも自由を重んじるという意味では現代人に一番近いのかもしれないなあ。暗愚、などといわれてきたけど意外とこれから人気が高まるタイプかも。

※追記 自由を重んじる、というのはちょっと違うな。乱れ行く世を傍観し楽しむといったあたりか。ちゃねらのような感じかな?