‘華氏451’(DVD)

 ブラッドベリ追悼として観てみた。思っていたよりずっと良かった。
 ブラッドベリは元々科学的に精緻な作家ではないけど、それと共に社会学的な考察の方もそれほど熱心なタイプでもなさそうで、SFとはいってもその世界は虚構性が強くて幻想小説家としての側面が目立つ。また本作のように極端な検閲を基調とする管理社会を描いても、人間の本質に潜む相互監視性みたいなテーマすらもやや類型的であまり深みはなく良くも悪くもゆるい感じが漂う。しかしブラッドベリは文章の美しさや抒情性が真骨頂なので、SFとしてよくある上記のような突っ込みはない物ねだりであることもこれまたよく知られてもいる。
 と前置きが長くなってしまったが、要はそういったブラッドベリのふわっとした甘さがいい具合に映画化されているように感じられた。特殊効果やデザインは古めかしくもあるが、時代が一回りして今ではレトロフューチャー的にいい具合になっているし、センスのよさも時代を超越してるところが随所に感じられる。シンプルな筋立ても、あまり文明批評的な力みが少なくて品良くその辺がブラッドベリの味わいと共通する。
 どうやらトリュフォーはあまり出来栄えに納得していないようだが傑作と思う。