久々に名画座(‘ゲンスブールと女たち’‘人生はビギナーズ’)

 久しぶりに名画座で2本立てを観てきた。

ゲンスブールと女たち’
 フランスポップス音楽の鬼才セルジュ・ゲンスブールはその反骨精神からロックの文脈で賞賛されることも多く、当ブログ主でもCDを持っているぐらいだがいかんせんあまりフランスポップスに興味がないのと歌詞が英語よりさらに分からないこともあって、気になるけど・・・といった存在だった。実はあんまり期待していなかったけど、いい作品だった。
 今回没後20年ということで公開された伝記映画が、その派手な女性関係方面を中心に描いた2010年のこれ。ナチス支配下パリでのマセた幼少時から美術学校に通い音楽と絵画に同時に取り組んでいた青年時代を経て音楽家として名を成し、数々の美女と浮名を流していく流れが丁寧に描かれいる本格的な伝記映画であった。とはいえ愛の行為そのものを曲にしてしまったあまりに有名な‘ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ’をはじめ物議を醸し続けた悪魔的な魅力を持つ不良オヤジだけに、映像手法もアニメあり怪物(La Gueule)ありのマジックリアリズム的に描かれているのが楽しい。日本語訳の名前は失念しちゃったけど、このLa Gueuleというのはゲンスブールの心のダークサイドいわば悪魔の部分で、これが日常的にガンガン入ってきて悪の道にいつも誘うんだよね(他の人には見えない。セサミストリートカウント伯爵似)。で、生まれたときから一緒にいるわけではなくて少年時代に街で出会ってつきまとわれるようになるんだけど、その時から急にピアノが上手くなるという話でちょっとあのクロスロードのロバート・ジョンソンのパロディになってる。この辺のセンスは監督がバンドデシネ作家のジョアン・スファールだからなんだろうなあ。というわけで、フィクション的な部分も楽しめるし、ゲンスブールにも興味が持てる(ボリス・ヴィアンとも関係があるんだなあ、未読だけど)しでいろいろおいしい快作だった。
 しかしジェーン・バーキン役の人はこの後すぐ自殺しちゃったのか・・・・。

人生はビギナーズ
 母の死後高齢の父親にゲイであることとゲイとして思う存分に生きようと思っていることを告白された息子の話。2つの時系列の話が平行して語られ、ひとつはその父親が末期癌となり主人公が看取る話でもうひとつは父の死後に恋人が出来てその心模様が描かれる話。主人公はゲイではないこともあって、ゲイと社会みたいな方向の話には進まず、よりそれぞれのパーソナルな問題が描かれる。実は主人公の恋人も家族の問題があって苦悩している。主人公も恋人も本人自体というよりは家族を重荷に感じているところがあって、その点では直接的な悩みではないことからやや踏み込みが足りない甘ったるいという側面も感じなくはないが、一方で該当するタイプの人は多いと考えられ現実味を帯びているともいえる。その描かれ方は丁寧で主人公のアートを挟みながらといった形式もアクセントになっていて(内容含めどことなく『T・S・スピヴェット君傑作集』を連想)共感させるものとなっている。繊細でウェットといったタイプの映画なので、センスが合わない人もあるだろうし、最初から終着点が薄々みえているような話でもある。だがちょっと気の利いたオチも含め個人的には後味の悪くない佳作だった。