『屍者の帝国』 伊藤計劃×円城塔

 故伊藤計劃による冒頭部分だけが残された作品を盟友・円城塔が長篇として完成させた本年国内SF最大の話題作。
 
 フランケンシュタイン博士による屍者復活の技術が世界的に広がった19世紀末。軍医となる道を選んだ医学生ジョン・ワトソンはその才能を見込まれ、国から特殊な極秘任務の命を受ける。

 元々双方のファンなどにはよく知られたこの本の成立事情から、嫌が上にも注目された本作だが、期待以上の傑作だった。スチームパンクなどでも人気の高いヴィクトリア時代を背景に実在・虚構の様々な人物が入り乱れユニークなアイディアが次々に登場する大スペクタクルで抜群に面白い。意外な展開を盛り込みつつ、終盤にはなるほどというところに着地させる心憎い演出。また残されたわずかな冒頭部分から伊藤計劃を自らに憑依させ、彼の持ち味をきちんと発揮させ見事な合作に仕上げた円城塔は新境地を切り開いておりますます作家としてのスケールが大きくなったのではないだろうか。もちろん細部では円城らしいシュールなユーモアも見られるし。
 二人に共通する重要なテーマである言語が中核に据えられているところに最大のポイントがあり、真の意味での合作になっているところに胸打たれる。そしてそのようなドラマチックな成立過程を除いても、作品そのものが刺激的で示唆に富む一級のエンターテンイメントになっていることが何よりも素晴らしい。