『青い脂』 ウラジミール・ソローキン

 話題の一冊。

 2068年、雪に埋もれた東シベリアの遺伝子研究所。トスルトイ4号、ドストエフスキー2号、ナボコフ7号など、7対の文学クローンが作品を執筆したのち体内に蓄積される不思議な物質「青脂」。母なるロシアの大地と交合する謎の教団がタイムマシンでこの物質を送りこんだのは、スターリンヒトラーがヨーロッパを二分する1954年のモスクワだった。(以下略)(帯より)

 このゼロ・エントロピー物質<青脂>というのが実際読んでいてもよくわからないし、あらすじを読む人はまずはいったい何の話なのだと?思うのが普通だと思うが本当にこんな話なんです(笑)。まったくもってどうやってその着想を得たのかさっぱり分からないが、実在人物が入り乱れて繰り広げられる奇想炸裂奇妙奇天烈の大変態小説。実はソローキンは以前『愛』を読んでピンと来なかった経験があり、本書も序盤はクローンによる文体模倣ネタが入っているなどして露文学に疎いこちらは後半このような前衛文学的な要素が強くなっていくのかなあとちょっと心配していたが、全体としては「謎の秘宝を取り合う権力者のドタバタ喜劇」みたいな図式で展開されるので例えば筒井康隆のように読むことが出来て親しみやすい(もちろん元ネタが分かるとさらに楽しめるだろう)。馬鹿馬鹿しい(もちろん褒めてる!)クライマックスもSFファンとしては大満足だし、背景にもいろいろなネタがあるようでいかようにも深読みがききそうで、海外文学〜SFファンの間で伝説的な作品として長く語られることが必至の傑作だろう。ロシア語による造語はおろか中国語、フランス語、ドイツ語での言葉遊びが含まれた信じられないほどの難物、自分なら一生読むことが出来なかったはずのものを日本語で読むことを可能にしてくれた訳者・出版社に感謝の意を表したい。