『拡張幻想』 2011年版年刊日本SF傑作選 大森望・日下三蔵編

2011年版の年刊SF傑作選。以下印象に残ったもの。

「宇宙で一番丈夫な糸 ―The Ladies who have amazing skills at 2030.」小川一水 著者らしいポジティヴさがよく出ている軌道エレベータもの。現代の暗い世相の中そういった持ち味がこれまで以上に貴重なものに感じられる。

「巨星」堀晃
「新生」瀬名秀明 同時収録のと共に小松左京追悼もの。「巨星」が小松作品のモチーフを(基本的に)ストレートに踏襲し小松作品に寄り添うように成り立っているのに対し、「新生」は近年の瀬名作品に見られる官能的かつエモーショナルな文体で著者の個性が強く打ち出されあたかも対峙しようとしているようで、2作品の好対照なあり方が印象深い。

「Mighty TOPIO」とり・みき 原発事故をモチーフにするのは多くの作家が試みているものの複雑かつ重大過ぎる問題であり中途半端なものになりがちだが、さすがというか漫画の特性を過不足なく生かしたこの作品には人類の脱力するような情けなさ愚かさがものの見事に表現されていて泣ける。

「美亜羽へ贈る真珠」伴名練  <永遠の愛>を実現することが出来るナノマシンによるインプラント手術が開発されて世界は変貌する。伊藤計劃「ハーモニー」へのトリビュート作品。いいアイディアで結婚式など視覚的に鮮烈な場面も巧いが、もう少し短くてシンプルな方が衝撃力があったのでは。

フランケン・ふらんーOCTOPUSー」木々津克久 人造人間らしい天才外科医が活躍するコミックの一作品らしいがクトゥルー物でもあり楽しい。

「ふるさとは時遠く」大西科学 標高により時間のすすみ方に差がある世界。設定が面白いなあ。時間物らしい切ない話への落とし込みもはまっている。

「良い夜を持っている」円城塔 完璧な記憶力を持った父。その不思議な内面の世界を息子が辿っていく話。例によってどうにも理解が追いつかない部分がそこかしこにあるのだが、周囲の世界との折り合いをつけるために繰り広げられる思考は可笑しくも奇妙でもありながら、我々の写し絵でもある。特に幻影のようにしか感じられない妻とのエピソードには落涙。
いつものようによく分からないがいつものように傑作(泣笑)。

第3回創元SF短編賞受賞作〈すべての夢|果てる地で〉理山貞二 タイトルから想像したのは内省的な話だったが全然違っていて、超ハードなSFアイディアに基づいた量子コンピュータをめぐるエスピオナージュに先行SF作品へのオマージュを織り込みながらイーガンっぽく壮大なスケールに広がっていくというとてもデビュー作とは思えない強烈な異彩をはなつ作品。これまた難しかったが面白かった。

解説にもあるように2011年は震災・原発はやぶさ小松左京の死などSF方面でもいろいろ影響の大きい出来事が多かった。
作品でもそうしたものが少なからず取り上げられ(また伊藤計劃オマージュも計2篇)ヴィヴィッドであるが、一方でテーマのかぶる作品が多かったり百花繚乱的というか散漫なところもあり、文庫本なのに雑誌やムックっぽいという元々の傾向がより以上に強まった気がする(傑作ではあったが、コンテスト受賞作の掲載もその印象を強めている)。そこをどう思うかによって評価が変わるだろうが、個人的にはオーソドックスに傑作選らしくもう少しコンパクトにした方が好み。