『黒い海岸の女王』 新訂版コナン全集1 ロバート・E・ハワード

 2006年に出された新訂版で、ハワードの原典に忠実な作品を収めた上にエッセイや創作メモや書簡等まであるという、文庫なのに大変な労作という素晴らしい全集。
 コナンを読むのは全くの初めてだったが、巻末に収録された「ハイボリア時代」で壮大かつ綿密なシリーズ構想があったことが分かる。読んでいて感じたのは、様々な要素を盛り込もうというハワードの意図。例えば、舞台にしても雪原から不気味な塔から海・ジャングルと多岐に渡り、話もホラーにミステリにSF的といってもいい宇宙的なイメージまで広がる。密室殺人的な話(「石棺の中の神」)まであるのには感心した。結構理知的に話を組み立てた人なのではないかなあ。
 それにしても楽しいのはコナンのキャラクター。蛮族といわれ、密談が行われていても参加せず、「細けえことはいいんだよ」と言わんばかりに敵をバッタバッタとなぎ倒す。その割に飄々としてて、意外と女には優しいところもあったり。そして事件が終わると流れ流れていく。血腥さが魅力でありながら重苦しくないのはそのせいだろう。