『言語都市』 チャイナ・ミエヴィル

 








遥か未来、人類は惑星アリエカの「嘘をつくことがない」宇宙人とコミュニケートするためクローンを使った<大使>や<直喩>という特有のシステムを使用して平穏な日々が流れていた。しかしやがて変化の兆しが現れて・・・。

(以下、多少ネタばれ)



 言語の持つ二重性により、「嘘」を覚えたアリエカ人が暴走をし始める、というのは要約しすぎかな?「言語=麻薬」という表現が繰り返し登場するが、感染症として伝播するというエピソードもあり、バロウズによるところの「言語=ウィルス」でもあるのだろう。口に相当する二つの器官から同時に発話するアリエカ人と意思疎通を図るために、クローンにより二人ペアをつくった上にさらに思考を同期させるよう育て上げる(クローンの二人が同時に発語しないと言語として受け取ってもらえないのである)、ちょっとした嘘をつく大会「嘘祭り」だとか「嘘で酔ってしまう」などなど言語について真っ向からがっぷり四つに取り組んだアイディアがすごい。一方、、上記のような言語の麻薬性に取り込まれアリエカ社会と人間社会にディザスターが起こる過程が基本的に経時的語られ、ある意味予想される展開を示すため、全体の印象としては割合オーソドックスな話。ややディスカッションに偏り過ぎるきらいがあり良くも悪くもSFらしい作品といえるだろう。ディスカッションに寄り過ぎと書いたが、小説技巧は手堅い。難しい文化の橋渡しをする主人公と同じような仕事をしながらもあくまで保守的な夫との溝が深まっていく話でもあるのだが、性的には自由な社会らしく大使のペア「カル/ヴィン」と関係を持つ(まあいわゆる3Pだ
)。その中で夫が心配なためにカマをかけるエピソードなんかは見事だった。こうした言語テーマがもう少し全体の構成や言語実験的に文体を食い破っていったりするとなおのこと凄かったかもしれないが、この辺りはないものねだりか。またディスカッションに対して疑問を感じたり乗り切れなかったりする人にも評価し難いかもしれない(言語学的に妥当なアイディアなのかはブログ主には全く分からない)。
 それでも実にオリジナリティあふれるユニークなアイディアの話で読み応えがある。よいSFらしくいろいろな思考実験で脳を刺激してくれる力作である。


※少し追記しました