『蛇の卵』 R・A・ラファティ

 超知性を持つ選ばれた12人の子ども達。本物の超級人間「蛇の卵」になるのは誰か?(帯より)

 この「蛇の卵」世界の敵となる抹殺されなければならない存在。で、この12人の子どもの誰が「蛇の卵」となるか、といったミステリといえなくもないのだがそこはSF界最大の曲者ラファティだけにジャンルに括るなんていうのはもってのほか。まずはこの12人といったって人間は2人だけで、あとはコンピュータ、類人猿、アシカ、天使、ヘビ、熊、チンパンジー、象(胎児)、クズリにオウムとくるんだから推して知るべし。

(以下 内容に触れます。「ラファティでネタばれなんてあり得るのか?」といったツッコミはさておき、基本的には帯とか最低限の予備知識で読むのが楽しいと思うので)


 とにもかくにも矢鱈にいろんなものが盛り込まれた小説だと思った。上記12名の他にもカンガルーやクジラは登場するわ、蒸気オルガンにサーカスに空中都市(?)に海賊に透明人間に連続殺人の屋敷や孤島まで登場(これでもいろいろ忘れている気がする)。とにかくラファティの小説では人も動物も物も全て同等に語り主張をする。また、過去や未来のことが一同に会するようにどんな時間も同等といった有様である(時としてマジックリアリズムになぞらえて‘祝祭的’と評される所以であろう)。そのため、読者としてはあまりに濃密かつ類を見ない展開のためにまたもや振り切られてしまった格好だ。そして唖然とするメタフィクショナルなオチ。いやなんなんだこれ。
 というわけで、当方はあまりいいラファティ読者ではない。ただ語り口を楽しめばいい、というラファティファンの方々もいらっしゃるが(分かりやすい「九百人のお祖母さん」は別として)「その楽しみ方が分からないではないか」と思っている人もこれまたいらっしゃると思う、なぜなら自分がそうだったから。でもやっぱりラファティには他では味わえない独特な風味があり読む度に驚きを与えてくれる作家であり、次第に楽しめるようになってきた。自分にとってラファティは残酷とリリシズムの作家だ。本書ではリージンとガジャの象母子が襲われた過酷な運命には象好きとして涙を禁じ得なかった。全体像が掴めなくても、細部だけで十二分に魅力的な作家であることは間違いない。

※一部少し修正しました(4/29)