ウォーレン・ジヴォンを聴いている

 殊能センセーの影響もあって最近ウォーレン・ジヴォンを聴いている。ウォーレン・ジヴォンの名を知ったのは、1987年アルバム‘Sentimental Hygine’が発売された時で、ハスキーでドスの効いた低い声でシニカルな歌を歌う強面なロッカーの顔の一方、Leave My Monkey Alone(西洋人によるアフリカ植民への批判の曲)ではジョージ・クリントンをゲストにへヴィファンクをやっている多彩さに舌を巻きミュージックビデオでは一緒にダンスを踊る姿に不思議なユーモアセンスを感じた。しかしストレートなメッセージ性がやや重苦しい感じられたのとその後ロック全体への興味がやや薄れてしまったことで、ユニークなロックアーティストぐらいな印象しか持っておらず、末期ガンとなり死を前にしても持ち味が変わっていないらしいと知り凄いなあとは思ったものの熱心に聴くことはなかった。
 しかし改めていろいろ聴いてみたところ、(全部聴いたわけではないが)アルバムそれぞれ聴き応えがあり素晴らしいミュージシャンであることが実感できた。以下最近聴いているアルバムで、順番に雑感。(ミュージシャンの背景とかあまりチェックしていないので誤認があったら御容赦。)
?Warren Zevon(1976年)
?Excitable Boy(1978年)
?Bad Struck in Dancing School(1980年)
?Stand in the Fire(1981年)(Live)
?The Envoy(1982年)

?Warren Zevon
1.Frank and Jesse Jamesに登場するのは西部開拓時代の無法者で、アルバム邦題の‘さすらい’のようにアウトロー・どこにも所属出来ない者へのシンパシーを感じさせる。ストーリー性のある歌詞もこの人の特徴だろう。4.Hasten Down the Windは男女のすれ違いを描いているがリンダ・ロンシュタットにもカバーされた曲。9.Carmelitaにはメキシカンなテイストがあるが、この辺は地域的にも近接したアメリカ西海岸のロックらしい。10.Join Me in L.A.はブルージーな曲。ラスト11.Desperado Under the Eavesは美しいコーラスが印象的な名曲でもちろん素晴らしいが、好みとしてはもう一つ名曲として知られる7.Mohammed's Radioが好き。「モハメッドのラジオ」という言葉の意味がはっきりとは出て来ず、どうやら当時のオイルショック後のインフレを皮肉ったもののようだが、イマジネーションをかき立てられるタイトルである。特にスローなナンバーに名曲が揃っている。世評の高いアルバムで、その通りこれまで聴いた彼のアルバムではNo.1。

?
Excitable Boy
1.Johnny Strikes Up the Bandのように「さあ泣くのをやめて。バンドやろうぜ!」みたいなストレートなロックナンバーががけして嫌味じゃないのがこの人のいいところ。4.Werewolves in LondonのようにどうやらホラーやSFが好きだったのもSFファンとしては好感(笑)。Aaahoo!なんて吠えるユーモア感覚もこの人には時折見られて、味がある。5.Accidentally Like a Matyrもまた名曲。これも歌詞が難しいが、Matyr(殉教者)の様にというタイトルが胸に迫ってくる、非常に孤独と切なさにあふれる曲。6.Nightime in the Switching Yardは真っ向勝負のどファンク曲で、ブラックミュージックが好きでリズム感覚にも秀でていることがよく分かる。ラスト9.Lawyers,Guns and Moneyもストレートでカッコいい曲で、アルバム全体にダイナミックなロックの魅力にあふれたアルバムだと思う。

?Bad Struck in Dancing School
2.A Certain GirlはR&Bのクラシックでここでもブラックミュージック好きが顔を覗かせている。4.Empty-Hearted Heartも泣ける。この人のアルバムの傾向としてストレートなロックの合間に、ピアノのロッカバラードがスッと入ってきて心に染みるんだよね。6. Play It All Night Alongは‘Sweet Home Alabama’なんていう引用があって、貧困の改善しないアメリカを強烈に皮肉っている。7.Jeanine Needs a Shooterはブルース・スプリングスティーンとの共作らしいが本当に色々なミュージシャンが参加している。ビジネスでは不器用な人だけど音楽的に資質が優れていてユーモアもあったり人間として皆に愛されていたのではないかなあ、などと勝手に想像している(Youtubeでもいろんなミュージシャンとの共演を見ることが出来る)。また3.Jungle Workではレゲエのリズム、10.Gorilla,You're a Desperadoではレイドバックというかトロピカルなタッチもみられ幅広い音楽性が感じられる。12.Wild Ageはグレン・フライドン・ヘンリーイーグルス組のコーラスが涙ものの曲で、このアルバムでは一番好き。「(ロックで)ワイルドな世代よ永遠に!」とも「ワイルドな(あの)時代よ永遠に!」とも受け取れるロック讃歌。こういうのがこの人だと嘘臭くなくて素直に胸に響く。

?Stand in the Fire
いいライブだが、まあ予想の範囲内の内容かな。ただ10.Bo Diddley's A Gunslinger /Bo Diddleyでボ・ディドリーのカバーが入っていて、ブラックミュージックファンとしてはニンマリ。

?The Envoy
3.The Hula Hula Boysはタイトル通りハワイアン。色々なジャンルを取り込むことが出来るが、借り物ではなく自然に本人の資質と融合していて音楽家として誠実であるところもこの人の大きな魅力だ。楽曲によっては時代が感じさせる80年代っぽいキーボード音がやや浮いているものあるが、リラックスしたポップソング5.Let Nothing Come Between Youや染みいるバラード9.Never Too Late for Loveなどはやっぱりいい。

 米西海岸のロックというとイーグルスが代表選手になるだろうか。初期の爽やかなカントリーロックから様々なジャンルの音楽を吸収し進化して、「Hotel Carifonia」で西海岸の退廃を描くに至るという軌跡がよく知られているが、その進化の過程で吸収したダークであったり多様なジャンルであったりといった要素を体現していたのがこのウォーレン・ジヴォンではないかという気がしている。これまで西海岸のロックはそれほど強い興味を持っていたわけではないのだが、この人をキイとして見ていくと面白そうである。ともかくSFファンとしてはサイバーパンクの影響で作られた(が、全然サーバーじゃないとウワサの(笑)
)Transverse Cityをまずは聴かないとなあ。