ディスカバリーチャンネル<SF界の巨匠たち>第三回H・G・ウェルズ

 

第三回目。時代からするとウェルズの方がディックより早いわけだが、時代的な順番はあえてシャッフルしてるんだろうな。
 ヴィクトリア時代の生まれながら100年先の世界を予見していたウェルズ。科学技術の正負の面をグローバルにとらえる類稀なパースペクティブを持つ偉大な作家の背景には文明批評家の顔があった。世界の破滅への警鐘をフィクションにより鳴らすと共に、国際的な働きかけも行っていた。
 科学技術の話との関連では「宇宙戦争」における熱線〜レーザー技術とその軍事応用、相対性理論発表より10年も早く4次元の概念を導入した「タイムマシン」〜ワームホールバタフライ効果、科学技術の怖ろしい側面を描いた「透明人間」「モロー博士の島」〜見えない戦闘機ステルスや透明化で物を隠すメタマテリアルの技術やヒト幹細胞移植によるキメラ羊、核兵器を予見した「解放された世界」〜作品自体も科学者レオ・シラードを通じて影響を与えた核兵器開発の歴史といった内容でつづられていた(1946年まで生き広島・長崎の原爆投下を知ることになった)。また映画「来るべき世界」ではロンドンの空爆生物兵器が予見され、一方で科学技術による解決も描かれた。
 当時の火星研究における‘溝’の‘運河’への誤訳、「宇宙戦争」での火星人による襲撃と英植民地タスマニア原住民絶滅の話との関連などの詳細は中村融「宇宙戦争」の解説にあるが、考えてみると宇宙人への恐怖というのは実は人間への恐怖なのだなあと思えてくる。時に批判されたほどの奔放な女性関係、というのはあまり知らなかったのだが、そうした側面が「透明人間」などの暗い欲望への表現になったという暗示がちらっとありやや皮肉めいた演出(笑)。その孫で2002年映画「タイムマシン」を監督したサイモン・ウェルズも登場した。「解放された世界」は読みたいところだなあ。

 ミチオ・カクが紙を使った(とり・みきがネタにしていた)ワームホールの説明をしていてちょっと笑ってしまった(まあ他に特にいい方法はないのだろうけど)。