ナイトランド Vol.6 2013夏号

 毎号楽しいナイトランド。6号の特集はゾンビ!いつものように読み切り中心で感想。
 特集ゾンビは4篇。(多少ネタに触れているので未読の方は御注意)
「狩りーそして、そのあとさき」ジョー・R・ランズデール 中年夫婦にしのびよる隙間風。夫は大枚を叩いてとある旅行を計画。ゾンビ狩りツアーという現代的な切り口はゾンビに詳しくない者には新鮮だった。ランズデールの短篇集はいつか読もうと思ってるんだが。
「忌まわしき艦影」デリク・ガン 18世紀末英仏の海洋上での軍事緊張を背景にした、ゾンビというか幽霊船もの。船上の描写がホラー気分を盛り上げていてこれも読ませる。
「ロンドン死者戦争」ウィリアム・ミークル 死者との接触を実現する機会を開発したチャレンジャー教授の話を聞いた主人公は実験台となるが。降霊術をモチーフにしていて後半怒涛の展開やらいろいろ絡んできてのお楽しみもあり今号で一番楽しかったかなー。実はチャレンジャー教授のことは知らなかったのだが(笑) ふとクレジット見たら2013年で今年になってる。解説によるとナイトランド書き下ろしとな!いやー熱気あるなあ〜。素晴らしい!
「屍の顔役」グリン・バーラス&ロン・シフレット 安ホテルに泊っていた俺を狙ってやってきたのはゾンビだった。オカルト・ハードボイルドもの。合作のためだろうか、同じような男主人公二人の語りが交互に並ぶ形式がちょっとくどいキモしたが全体のB級感あふれるテイストはいい。
‘ホラーの巨匠・作品とインタビュー 夜の声 第2回’ラムジー・キャンベル
マッキントッシュ・ウィリー」 公園の休憩所に潜む恐怖。思春期の不安定な心理が上手く反映されている青春ホラー。これもよかったが、薄暗くて汚い休憩所のイメージが効果的な作品なので最近の綺麗な日本の公園に慣れた若い世代にはどう感じられるのかな?
「終わらない夢、想像力の闇」 2004年と比較的最近掲載されたインタビュー。超自然の存在については否定的だが、説明のつかない奇妙な体験については認めるというあたりの絶妙なバランスがホラー作家としての偽らざる心境なんだろうなあと思った。不気味な体験の話で出てくる画家のJ・K・ポッターはSFファンお馴染み究極映像研究所でも紹介されたこちらの人かな?あとニューウェーヴを出自とするSF作家の印象が強いM・ジョン・ハリスンへの賛辞は少々意外だった。短篇ホラー書いてるのか。「ライト」はなかなか面白かったのでどんなのか気になる。
‘センスオブ・ホラー、ブラッド・オブ・ワンダー’第2回 星新一
「殉教」 これも死後の世界との交信の話だった。天才博士による発明のパターンで典型的な著者らしいアイディアSFで既読だったが、ナイトランドで掲載されると新たな印象になる。内容・装丁など全体に世界観が貫かれている雑誌だから、採録であっても別の面が浮き上がってくるのではないか。雑誌って面白い。
「歌姫のくちびる」田中啓文 姿を消した幻のジャズ・シンガーを追う音楽ライター。ジャズ奏者でもある著者のセンスが十二分に発揮されたジャズ・ホラー。これもいいねえ。

 それからオーストリア作家アンドレアス・グルーバー来日記念による朝松健との「オーストリア・日本ホラー対談」もよかった。こちら基本SFファンでホラーはまだまだ詳しくないのだけど出版規模のけして大きいとはいえない国同士の作家のエール交換には爽やかな気持ちになるよ。

 というわけで今号も捨て作品なし充実した内容で大満足。これからもこの水準で是非とも!