『土佐日記(全)』 紀貫之 西山秀人編

 古典。元々は京に住んでいた官吏が土佐の国司を勤め、任期を終えた後五十五日間かけて帰京する様子を侍女の視点から書いた日記文学というもの。
お付きのものを沢山引き連れる大移動である一方、貧乏官僚であることから旅には様々なトラブルが待ち受けている。天候や縁起担ぎにより思うように進まないわ、楫取(かじとり)は欲張りだわ、体調は悪くなるわ、贈りつけられたものへの返礼でけち呼ばわりされるわ・・・。その現代人にも共通する愚痴っぽいノリが和歌を交えたゆったりとして流れで語られる。時代が移ってテンポは違っていても、人の思いは変わらないのだなあと感じる。何よりも失ってしまった子どもについての悲しみがしんみりと胸に染みる。
 角川文庫のこのシリーズは以前に読んだ「平家物語」もそうだったが現代的な切り口で非常に分かりやすく解説されており、本書でも「土佐日記」をブログになぞらえる視点から一般読者に馴染みの薄い当時の文化をコンパクトに平易に紹介していて初心者には助かる。