『4522敗の記憶』 村瀬秀信

 何でこんなチームを応援しているのだろう。
 当レビュー人も子どもの頃から地元チームであったホエールズを縁あって応援するようになってから何度となくそう思ってきた。とにかく弱い。群を抜いて弱い。たまにいい時期が来ても長続きせずすぐにダメになってしまう。本当に応援するのが馬鹿馬鹿しくなる。
 単なるスポーツ、それも一球団のことではないか。プロ野球観戦をしたいのなら他のチームを応援すればいい。こんな希望の見えないチーム見捨てればいいではないか。何度も考えたが、やはり気になる。あまりの惨状にさすがに冷ややかに眺めていた90年代中盤いきなり状況が変わりなんと98年には優勝をしてしまう。うっかり勘違いしまたズルズル応援することになってしまい、再び馬鹿をみているのが現状だ。いわば呪いのようなものだ。
 本書はそんなファンの心にストレートに響いてくる稀代のホエールズベイスターズ本だ。著者は1975年生まれの野球ライターで、ネットマガジンでもベイスターズについてコアなコラムを書いていて愛読していた。満を持して多くの関係者にインタビューを行い時には聞きにくいことまで質問をし、本書を仕上げた(情報量はあと5冊書けるくらいあるらしい→ http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130723-00000607-playboyz-base)。まずは構成が上手い。歓喜の98年からあっという間に奈落の底へ転落する経過を追い、その負のスパイラルの原点であるホエール時代にスポットライをあてる。熱くチームの歴史を探求した結果は正直ファンには残酷とすら思える結論に至る。このチームに染みついた暗黒体質はどんな改革を行おうと取り除けないかもしれないぐらいに根深いもので、著者が鋭いのは長年弱過ぎたためファンまでネガティブにチームの足を引っ張ってしまう様子さえ描いている。
 なぜそれだけ弱いのか。今までファンが悪者と考えていた人物たちも重い口を開く中で分かったのは必ずしもみなチームのことを考えていなかった訳ではないことだ。多くの選手、関係者は体を賭してチームの強化に取り組んできた。それでも内紛は起こり、功労者の首は切られ、チームは浮上しない。これは宿痾なのだろうか。
 そんなチームを見つめる著者の眼差しは熱くそして優しい。悲しいダジャレを交えた文体によって描かれるベイスターズは思うようにならぬ我々そのものようにも思え、そして最後の一文に涙が流れる。
 何?今日も負けたって・・・・。