『ヨハネスブルグの天使たち』 宮内悠介

 空から少女ロボットが降る近未来。閉塞状況の続く世界各地で人々は。

 デビュー時からSFジャンルを越えて幅広い支持をあっという間に勝ちえた、注目の若手作家の2冊目の単独著書でこれまた直木賞候補で話題となった連作短篇集。優れた資質を感じさせる作品。
ヨハネスブルグの天使たち」 人種対立の絶えない南アフリカの話。アフリカーナーという白人種たちの選択がなかなかアイロニカル。
「ロワーサイドの幽霊たち」 911テロを背景に、なんとあのオールディスの問題作「リトル・ボーイ再び」の発想を持ち込んだ作品。ちょっとビックリする内容だが、時制の入れ替えなど高度な技巧を有する作家だとよく分かる。
「ジャララバードの兵士たち」 内戦のアフガニスタンに持ち込まれた兵器の謎。これもひねりの効いたアイディア。
ハドラマウトの道化たち」 「ジャララバードの兵士たち」と登場人物の重なる。舞台はイエメンで、これまた内戦状況でのミッションの話。
「北東京の子供たち」 現代日本のかかえる様々な問題がさらに進行した状況の中のティーンエイジャーが描かれている。団地という場の特性が上手く活かされている。

 伊藤計劃とバラードが引き合いに出されている帯はどうにもいただけないが(題材など関連は無いとも言えないが、どちらにも似ていないし若い著者が気の毒)、文章は密度が高くミステリ的な技巧にも優れ、沢山の情報に基づいた現代社会の諸問題をヴィヴィッドに切り取る手腕も見事。こうした様々な地域を違和感なく現代的な視点で描くというのはこれまでの日本SFには無かったもので、21世紀に至り随分進歩したのだなあと感じられた。しかしこちらの頭が硬いせいか、全体にシリアスな内容と少女ロボットが落ちてくるアイディアを結びつける必然性が最後まで納得できなかった。自分の中では、アニメ的な風景しか浮かばない少女ロボットたちと世界各地の取り合わせは、ミスマッチによるマジックは生まれずミスマッチのままになってしまっている。