『バルタザールの遍歴』 佐藤亜紀

 第二次大戦前、ベルリン。一つの肉体を共有する双子であるバルタザールとメルヒオールは傾いた公爵家に生まれ、無為な日々を過ごし転落の道をたどる。身内にも見放され、ウィーンを追いだされた二人は・・・。

 この一つの肉体を共有する双子という設定に首を捻りながら読んでいくことになるのだがこれが重要な伏線となる。前半は没落貴族の頽廃的な暮らしと濃密な人間関係が読みどころとなるが、後半流れ流れて地中海はアフリカにほど近いへき地の島へと舞台は移動すると
ファンタジー的なアイディアであっと驚かされナチスも絡んでノワール小説の様な様相を帯びてくる。強い自我を持つ主人公たちが生き生きと闊歩する多面的な魅力のある小説だ。