『皆勤の徒』 酉島伝法

 話題の新人による同じ設定を背景にした遠未来SF連作短篇集。表題作は第二回創元SF短編賞受賞。ちなみに作者はデザイナー兼イラストレーターで本文中の挿画も本人。
 無理矢理一言で言えば、黒丸訳(ま、他は無いんですが)ニューロマンサーや誤変換を連想させる独特な言語感覚で奇怪なイマジネーションを喚起するといった作品。主人公らしき生命体は一見人間のようでもあるが、読む進むと体も認識も大きく異なり、虫やら内臓やら気色の悪いイメージがテンコ盛りで登場する(そういうのが苦手な方は無理かも)。また漢字を中心としていることもあり(またイラストでも)、社・鳥居といった日本的な要素が取り入れられているのも特徴か。とくにかく強烈なインパクトの作品で、正直設定については(丁寧な解説を読んですら)おぼろげにしかつかめなかったが面白かった。
「皆勤の徒」 なんか仕事がツラい感じの主人公。デカい社長コワい。
「洞(うつお)の街」 分類学部で学ぶ学生が主人公。といってもみんな超不気味なんですが(笑) 片仮名がとりわけ少なく、日本的な要素が特に目立つかな。
「泥海の浮き城」 のっけから城同士の結婚ですからね。異世界ファンタジー的に読むことも出来るのかな?イマジネーションという意味ではこれが一番かな。その分かなり手強い。
「百々似隊商」 4作の中ではSF的な部分と異世界ファンタジー的な部分が比較的分かりやすく書かれており(解説の通り)一番親しみやすい(はずの)作品。まあでも相当歯応えありますよ(笑)。

 言葉遊びの部分はユーモアがたぶんに含まれていて、変な小説が好き(でグロテスクがOK)な人は自分のようになんとなくの理解でも十分楽しめると思います。いやこれまたユニークな人が出てきたな。